愛しのオオカミ
13話
「び、びっくりしたね…」
「……」
支えかけていた修の手は、すぐにポケットに収納された。
電車内の微妙な静まりや小さな物音に、どこか気まずさが出ていたが、ふと話題が浮かんだ美紀は、顔を上げて口を開いた。
「そういえば、テストどうだった?体育祭のことでいっぱいで…」
「…押花に教えてもらったところが出たな。合ってた」
「ほんと!?わ~…それは…嬉しいなぁ…へへ」
眼鏡をかけ直す仕草で照れをごまかす美紀は、ニヤけてしまう顔を隠しきれていなかった。
「……今日…ずっと笑ってるな」
「え、そう…かな…?たぶん、楽しいのと嬉しいのがいっぱいあったからだと思う!」
満面の笑みを向けたあとは、ずっとにこにこと笑う美紀。
美紀の表情を見た周囲の人間が、顔を赤らめたり、ヒソヒソと話す様子を見て感じ取った修は、美紀を隠すように真正面に立つ。
「楽しいと嬉しいって…なんだ?」
「……ダンスの練習とか…く……」
「く?」
「く…クラスの人と仲良くなってきたなっていうのがっ、楽しいと嬉しいでいっぱい、です!」
顔を赤くしながらも、笑って修を見上げていると、またガタンと音がして急に電車が動き出した。
後ろに倒れそうになった美紀を、咄嗟に車両の壁に手をついて、反対の手で支えながら受け止める修。
「……」
「………」
バッグの柄を握りしめていた美紀と目が合うと、修が先に逸らした。
体勢を整えた美紀は、お礼を伝えた。
「…ありがとう…ごめんね」
「…別に…いい…」
壁から手を離す修だったが、美紀を支えるように添えた手は、離さなかった。
電車内のアナウンスが流れるものの、二人の間に沈黙が包んだ。
(何か…何か話題……!?で、でもっ、黒井くんの手が…なんで?え!?あ、汗くさくないかな…!?)
「…押花」
「は、はいっ」
「もうすぐ着く」
パッと顔を上げると、薄暗い外に見覚えのある景色が流れる。
すると、修の手も流れるようにポケットに戻り、少し経つと美紀の降りる駅に到着した。
「あの…今日はありがとう」
「…何もしてない」
「交換してくれたよ…っ」
ポケットからスマホを取り出して見せると、思わず笑ってしまった修。
「ふ…っ…ニヤついてるぞ」
「え…!」
美紀が顔を赤くしているうちに、駅に到着してドアが開き、降りる際に修へ振り返る。
「黒井くん、また明日ね!」
「…あぁ。明日」
少しの笑みを見せたまま、ドアが閉まると、修を乗せた電車が発車した。
電車が見えなくなっても、美紀はじっと見つめていた。