愛しのオオカミ
通知を告げるバイブ音が鳴ると、美紀の体が大きく跳ねた。
掛け布団を被ったまま、少し震える手でスマホを取ると、深呼吸をして画面を開いた。


『押花が読むなら読む。でも、体育祭まで待てないかもしれない』


「へ、返事きたぁ…!」


思わず声が出てしまうと、スマホの画面を隠して、自分以外にいない部屋をキョロキョロしてしまう美紀。
もう一度見直すと、同じ文面を読み返した。


(読もうかな…黒井くんも待てないって…確かに…そうだな…えっと…)


『じゃあ、今から読もうかな』


送る文章を見返して、今度はすぐに送ったあとも、画面をじっと見た。
すぐに既読が表示される喜びを感じていると、スタンプが一つ送られてきた。

犬がOKといっているスタンプは、変わらず可愛らしく、ふき出してしまった美紀だが、着信音で固まった。


(え…え!?黒井くん!?)


修からの着信に戸惑いと緊張が高まってしまう美紀。
震える指で通話に出ると、スマホを耳に当てた。


「も、もしもしっ」

「…もう読んでるのか?」

「いや!えっと…ほ、本は持ってる…今、手に…!」

「俺もだ。体育祭終わってからって言ってたのに、気が変わったのか?」

(黒井くんの声…近い…!)


顔を赤くしながら、修の声に聞きながら、持っていた本の表紙を触る。


「その…待てないって…わ、私も読みたいなって思っちゃって…」

「じゃあ、電話切ったら読むか?」

「え!?…あ、うん……読む…ね…。えっと、あと…」


修の返事に言葉を濁す美紀は、歯切れの悪い言葉で返してしまった。
通話でも自分から沈黙を生んでしまった美紀は、慌てて話題を探す。


「あの、そ、その…!ご、ご飯食べた!?」

「……あぁ。とんかつ食べた」

「とん…黒井くん、お肉好き…?」

「…まぁ…好きだな」

「わ、私もお肉好き!」

「そうか」


声音だけを聞く美紀は、もどかしい気持ちになってしまう美紀。


(…どんな顔してるのかな…笑ってる…?)

「えっと、じゃ、じゃあ…その」

「押花」

「な、なに!?」

「読む時間がなくなる」


まるで修に促されるように時計に視線を向けると、キュッと口をつぐんだ。
しかし、ゆっくりと口を開く。


「…うん。そうだね…えっと、おやすみ、なさい」

「…寝るのか?」

「え!?いや、先に言っておこうかなって…」

「…MINEしてくれ。一応、おやすみ」

「…うん…おやすみなさい…」


ポロンと通話が切れる音が聞こえたあと、美紀はバッと掛け布団にもぐった。
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