愛しのオオカミ
(黒井くんと電話しちゃった…どうしよう…!は、初めて男の子の友達と、よ…夜に電話しちゃった…!)
熱い頬を押さえる美紀は、鼓動の速さを感じながら、そっと掛け布団から顔を出してスマホの画面を見る。
【通話終了】の表示を確認すると、そのまま呆けるように文字を見つめた。
(…本…読もう…)
いつのまにか枕元に投げ出された本を取って、心の中で謝りつつ、そっと開いて読み始めた。
『押花』
頭の中で響く修の声がちらつき、一行飛ばしてしまったり、同じところを読んだりして、一ページを読むのに時間がかかってしまった。
気付けば、23時半。
美紀は、あくびをして本を閉じると、スマホを取って画面を開いた。
MINEで修のトーク画面を開き、『おやすみなさい』のスタンプを送る。
すぐに修から犬のスタンプで『おやすみ』と返ってきたのを見て、ふっと微笑んでそのまま眠ってしまった。
…ー
花のいい香りがする…
甘い香り…?
「お花を摘んできたの!それから、パイも持ってきたよ!」
誰だろう…この子…可愛いなぁ……
「ねぇ、お…ー」
え?…何を言ったの…?
…ー
パチッと目を開ける美紀は、起き上がりながらスマホのアラームを切った。
眠たい目を擦りながら、まだぼんやりとする意識で思い返す。
(…なんとなく…いい夢だったなぁ…可愛い子見たし…)
朝の大きなあくびを出した美紀は、ベッドから降りて、部屋を出た。
台所から聞こえてくる水音や、食器が重なるようなカチャカチャとした音を聞くと、ふわりと微笑んだ。
洗面所で顔を洗って、部屋で着替えと荷物の用意を済ませると、バッグを持って先ほどの台所へ。
すでに朝食のトーストと目玉焼き、スープが並べられている。
「おばあちゃん、おはよう」
「おはよう」
いつもの朝に、美紀の顔はほころんだ。
「今日も帰りは遅いんかね?」
「うん。練習してるし、…またお腹空いて帰ってくると思う!」
「じゃあ、ご飯いっぱい用意しておこうねぇ」
おばあちゃんとニコニコと笑い合ったあと、朝食を食べてからバッグを持ち、玄関へ向かった。
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
家を出てすぐに眼鏡を取り出してかけると、朝の静けさと移動する人の音の中へ、美紀は歩いていった。