愛しのオオカミ
「体育委員は先に行ってるから、いいとして。えーっと、今日は体育祭当日です。怪我のないよう頑張りましょう!それと、ガチな優勝を決めたら、先生から飲み物の差し入れが待ってまーす」
「え~寿司とか焼肉とかでしょそこ~!」
「クラス全員を連れて行けるだけの懐がないんです~。それじゃあ、グラウンドに出てくださーい。お昼まで施錠するので、貴重品は外で預かります」
クラスメイト達は、各々が揃って教室をあとにしていくと、美紀も冬のジャージと財布やスマホ、タオルを持って、教室を出た。
廊下には他クラスの生徒たちも歩いており、赤・青・緑・黄の色のハチマキをつけている。
(…頑張ろう…!)
ジャージを着る美紀は、前のチャックを閉めてから、生徒の波の中を歩き出した。
「押花」
「…黒井くん…?」
「人に当たる」
「あ…ありがとう…」
声をかけた修は、美紀を壁側にして、一緒に並んで歩く。
「そういえば関先生の本、どこまで読んだ?私、まだ半分の手前くらいで…」
「…たぶん、後半に入った」
「え!?早い…い、言わないでね!?」
「……あぁ」
見上げて必死にお願いする美紀を見て、修は視線を逸らした。
混雑する下駄箱について、外靴へ履き替えると、晴天の空の下に出る。
心地良い風が吹くと、賑わう周りの生徒を見ては、うずうずする感情を感じながら修と一緒に校庭に向かった。
ふと、前を歩く亮太の後姿を見かけると、手を伸ばして背中にトンッと触れた。
「…おぉ、美紀ちゃんだった。今日は頑張ろうね~」
「うんっ、あ、あと…その、よかったら…あとででいいから…MINEのこ、こ、交換を…」
「今しよう。すぐしよう」
亮太は言葉通り、すぐにスマホを取り出して読み取り画面を開く。
ざわついていた人の声が、二人の会話を聞いていた生徒によって黄色いようなピンクのような声音に変わった。
「……」
「え、えっと…はい…っ」
「ん。……えへへ~。オレ今日すんごい頑張れる~っ。ありがとうね美紀ちゃん。まじな優勝するね~」
美紀のスマホからQRコードを読み取った亮太は、嬉しそうに笑った。
ニコニコと笑った亮太を見て、笑みを返していると、友人につかまって茶化される姿を見送った。
その横で、修は美紀のスマホをじっと見つめていた。