愛しのオオカミ
無事にうららとゴールを決めた修は、うららが持っていた紙を気にした。
ゴールで待っていた判定するための体育委員の生徒が、マイクで読み上げる。


「青組の選手、お題は“黒い人"で…?」

「黒井先輩(黒い人)を連れて来ましたっ」


元気に答えるうららに対して、うーんと悩んだ判定員は、白旗を上げた。


「こちら、OKです!」

「うそー!!まじでいった!うらら〜!!」

「黒井くん…ショックー……」


盛り上がる一年の声が上がる中、二、三年生の嘆く声が聞こえた。
修とうららは1位の列に並ぶものの、いまだに手を繋いだまま話している様子に、美紀の胸は違和感を覚える。


(…ゴールしたのに……。黒井くん…嫌そうじゃない…のかな…?)


美紀の視界が一気にグラつくと、ごまかすようにタオルで顔を拭いた。


「押花ちゃん、そろそろ整列いくよ~」

「う、うん…っ」


一年生の借り物競争が終わり、修とうららが退場していく様子から目を逸らした美紀は、女子たちと一緒に入退場門へ向かった。
顔を上げると、ちょうど修とうららが門に入って来る。


「…は…っ…はぁ…っ」

「黒井先輩、ありがとうございました!1位めっちゃ嬉しいです!」

「あの判定はザルだったろう…」


笑顔のうららと、呆れた様子の修を見ると、手はもう繋いでいなかった。
美紀の呼吸が速くなると、女子の悲鳴が上がった。


「押花ちゃん!?押花ちゃん!大丈夫!?」

「…う…ん、へ…き……」


チカチカする美紀の視界は、半分ぼやけ気味だった。
すると、美紀の頭に、オレンジ色のタオルを掛ける亮太が体を支えた。


「美紀ちゃん、無理しない。誰か先生呼んできて」

「わ、私呼んでくる…!」

「りょう、た…く……」

「ん。少し待ってね。大丈夫だよ」


うららと話していた修は、急いで人だかりをかき分けてやってくると、美紀のそばにしゃがんですぐに横抱きにする。


「ちょ、黒井くん安静に」

「熱中症だ。俺が運ぶ」


美紀を抱え上げると、鋭い眼差しで睨むように亮太や周囲に向けて歩き出した。
浅く呼吸をする美紀は、ぼんやりと黒髪の人を見上げる。


「…は…亮太くん…?」

「あいつはいない」


言葉の意味はわからなかったが、聞き慣れた声に安心したのか、くてっと修に体を預ける美紀。


「…俺がいればいい」


美紀を横抱きにしたまま救護テントに連れて行くと、保健師がすぐに校内の保健室まで運ぶよう、修にお願いした。
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