どん底の中で、救ってくれたのは君でした。ー元歌姫の私と、君がくれた光の物語ー
なのにこの人だけは、そんな薄い仮面をあっさり見抜いてしまう。

「私、別に……」

大丈夫だと言おうとして、言葉が止まる。

来栖ノ先輩のまなざしが、あまりにもまっすぐだったから。

「大丈夫じゃないなら、無理に強がらなくていい」
「君がどんな事情でここにいるのかも、まだ全部は聞かない」

「…………」

「でも、ひとつだけ約束して」
「ひとりで消えようとしないで」

その瞬間。
ずっと閉じ込めていた何かが、胸の奥で小さくひび割れた気がした。

どうしてこの人は、そんなことまで言うの。
まるで私が本当に壊れかけてるって、知ってるみたいに。

「先輩には……関係ないです」

精いっぱいの拒絶。
でも来栖ノ先輩は傷ついた顔ひとつせず、静かにうなずいた。

「うん。今はそれでいい」

「え……」

「関係ないって言われても、俺は勝手に君を守るから」

あまりにも自然に言うから、意味を理解するのに数秒かかった。

「ま、守るって……」

「君、目立たないようにしてるくせに、放っておけないくらい危なっかしい」
「それに」

先輩は少しかがんで、私の耳元近くでささやく。

「そんな姿でいても、君は十分かわいい」

「っ……!?」

一気に顔が熱くなる。
なにそれ。
そんなの、初対面で言うことじゃない。

慌てて口元を押さえた私を見て、先輩は満足そうに笑った。

「やっと少し、年相応の顔した」

「からかわないでください!」

「からかってない。本気」

即答されて、もう何も言えなくなる。

この人はずるい。
目をそらしたくなるような言葉を、平然とまっすぐぶつけてくる。
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