どん底の中で、救ってくれたのは君でした。ー元歌姫の私と、君がくれた光の物語ー
それに――
こんなふうに大事そうに扱われるのなんて、いつぶりだろう。
「来栖ノ先輩」
「ん?」
「どうして、私なんかに……」
そう聞くと、先輩は少しだけ黙った。
春風が吹いて、私たちのあいだをやわらかくすり抜けていく。
やがて来栖ノ先輩は、ひどく大切なものを見るような目で私を見つめた。
「君が思ってるより、ずっと前から特別だから」
胸が、また強く鳴る。
その意味を聞き返す前に、校舎のほうからざわついた声が聞こえてきた。
どうやら先輩を呼ぶ声らしい。
「蓮先輩ー!」
「生徒会、もう集まってます!」
親しげに手を振る女子生徒たち。
来栖ノ先輩はやっぱり有名人なんだと、あらためて思い知らされる。
けれど先輩はその声より先に、私へ学生証サイズの小さなカードを差し出した。
「困ったことがあったら連絡して」
「え……」
「いつでも迎えに行く」
「そんなの、できません」
「じゃあ、できるようになるまで俺が距離を詰める」
「何ですか、それ……」
くすっと笑ってしまうと、来栖ノ先輩もやわらかく笑った。
「やっと笑った」
その一言が、不思議なくらい胸に残った。
私はまだ、この学園にいるのが怖い。
正体がばれるのも怖い。
過去を知られるのも、また傷つくのも怖い。
それでも。
どん底のなかで息もできなかった私に、最初に手を差し伸べてくれたのは。
まちがいなく、この先輩だった。
そして私は、まだ知らない。
この出会いが、止まっていた私の時間を大きく変えていくことを。
こんなふうに大事そうに扱われるのなんて、いつぶりだろう。
「来栖ノ先輩」
「ん?」
「どうして、私なんかに……」
そう聞くと、先輩は少しだけ黙った。
春風が吹いて、私たちのあいだをやわらかくすり抜けていく。
やがて来栖ノ先輩は、ひどく大切なものを見るような目で私を見つめた。
「君が思ってるより、ずっと前から特別だから」
胸が、また強く鳴る。
その意味を聞き返す前に、校舎のほうからざわついた声が聞こえてきた。
どうやら先輩を呼ぶ声らしい。
「蓮先輩ー!」
「生徒会、もう集まってます!」
親しげに手を振る女子生徒たち。
来栖ノ先輩はやっぱり有名人なんだと、あらためて思い知らされる。
けれど先輩はその声より先に、私へ学生証サイズの小さなカードを差し出した。
「困ったことがあったら連絡して」
「え……」
「いつでも迎えに行く」
「そんなの、できません」
「じゃあ、できるようになるまで俺が距離を詰める」
「何ですか、それ……」
くすっと笑ってしまうと、来栖ノ先輩もやわらかく笑った。
「やっと笑った」
その一言が、不思議なくらい胸に残った。
私はまだ、この学園にいるのが怖い。
正体がばれるのも怖い。
過去を知られるのも、また傷つくのも怖い。
それでも。
どん底のなかで息もできなかった私に、最初に手を差し伸べてくれたのは。
まちがいなく、この先輩だった。
そして私は、まだ知らない。
この出会いが、止まっていた私の時間を大きく変えていくことを。


