ベリーズカフェ15周年記念オリジナル短編『幸せのバタートースト』坂井志緒/著

 東京に戻ってからも御園さんに会う機会が得られないまま、数日が経過した。

 昨日来たメッセージによると、出張でシンガポールへ行っているらしい。マーライオンの吐き出す水を口で受けているように撮った写真も添えられていた。

 自撮りでは撮れない写真に、ふと疑問が湧き上がる。

「この写真、誰が撮ったんだろ……」

 画角、アングル、顔が明るくなるような明度の調整具合。なんというか全体的に、女性が撮ったもののような感じがする。
 シンガポールといえば、アジアを代表する世界有数のリゾート地だ。彼が女性と楽しんでいる様子が容易に想像できてしまい、胸がズンと重くなる。

「バカね。出張って書いてあるじゃないの」

 同行した女性スタッフとか、現地で出会った女性の観光客に撮ってもらっただけかもしれない。それに、彼が女性と楽しんだところで、私にはそのことを責める資格はない。

 ただちょっと好意を示されただけ。恋人でもなんでもない。

 でも、こんなことで傷つく程度には、彼を好きになってしまっている。

 御園さんと初めて会ったのは、シャトー・ジャルダンで開催したスリステの立ち上げパーティーの時だった。私は主催者として、きっちりドレスアップして臨んだ。ロイヤルブルーのマーメイドドレスだ。

『このたびは新事業の立ち上げ、おめでとうございます。ささやかではございますが、当ホテルよりお祝いを贈らせてください』

 彼はそう言って、私に素敵な花束をくれた。ブルーのドレスを引き立てる、イエロー系の花束だった。あらかじめ用意していたのではなく、私のドレスを見てから映えるものをわざわざ作ってくれたのだとわかって、感激したのを今でも覚えている。

 口に出したことはないけれど、あの時私は、まるで自分がプリンセスにでもなったような気分だった。

 素敵な王子様が現れて、私を見初めてくれた……?

 なんて、三十路を超えた女にしてはずいぶんイタいことを考えた。

 白状すると、私は初対面の時からずっと、彼に淡い恋心を抱いていたのだ。あの淡い思いが、まさかこんなにも大きく膨らむとは思ってもみなかった。

 気持ちを自覚してさえ彼との関係の進展を躊躇するのは、彼は私への好意を隠さないわりに、はっきり「好きだ」とも「付き合ってほしい」とも言ったことがないからというのもある。

 彼が私を口説いているのはプレイボーイの資質であって、私といい関係を継続的に築いていくためではないかもしれない。心を許したって、彼のコレクションのひとりになるだけかもしれない。

 ネガティブな被害妄想かもしれないが、これも自己防衛だ。私はもう、結婚を見据えた真剣な交際しかしたくない。もし彼の好意が一時的な関係を求めるものだとしたら、いくら彼が素敵な男性でも、友人止まりにしておくべきだ。
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