ベリーズカフェ15周年記念オリジナル短編『幸せのバタートースト』坂井志緒/著
「おはようございます、社長」

 会社に着くと、この春からスリステ事業のディレクターを任せている立石(たていし)久美(くみ)がすでに出社していた。始業時間にはまだちょっと早い。

「おはよう久美ちゃん。今日は早いね」

「はい。資料を送った会社から返信が来ていないか気になっちゃって」

 スリステ事業は今、企業やキャラクターとのコラボを狙って、各社に企画の打診をしているところだ。コラボが叶えば市場が広がる。市場が広がればもっといい条件で取引ができるようになる。この事業は今が正念場(しょうねんば)といっても過言ではない。

 打診のほとんどはスルーされ、返信も来ない。返信があっても「今回は見送らせていただきます」が圧倒的多数。だが、興味を持って連絡をくれた会社もいくつかある。それらの会社にはより詳細な資料を添付して「具体的な打ち合わせがしたい」という旨のメールを返し、返事を心待ちにしている状況だ。

「どう? 返事、来てた?」

「確認はこれからです。……あ! 一件来てます!」

 メールを開いた久美ちゃんの表情がぱあっと明るくなる。私もつい体を乗り出す。

「え、ほんと?」

 しかし次の瞬間、彼女の表情にどんよりと影が落ちた。

「……見送られちゃいました」

「そっか。また次のメールに期待しよう」

「はい」

 こんな時、自分の社長としての未熟さが嫌になる。私にもっと人脈があったら、もっと影響力があったら、私が自分で仕事を取って来られるのに。部下に残念な思いばかりさせなくて済むのに。

 この日は無情にも、さらに六件ものお見送りメールが届いた。

 返信が届くたびに期待しては落胆する。その繰り返しのような一日だった。
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