ベリーズカフェ15周年記念オリジナル短編『幸せのバタートースト』坂井志緒/著
ホテルのエントランスではなく、地下駐車場でタクシーを降りた。
「明菜さん、こちらへどうぞ」
駐車場の壁と同じ色で塗られた扉から建物の中へ入る。従業員用の出入り口かなと思ったのだが、それにしては床がふかふかだし、壁紙や照明がやけに豪華だ。
「あの、御園さん。この通路って……」
「VIPのお客様をご案内するための、専用動線です」
それを聞いてぎょっとした。顔の知られた芸能人や政財界の大物、国賓などを迎え入れるような高級ホテルには、彼らのプライバシーを守るための特別な通路があると、噂には聞いたことがあった。地味な色の扉の割にはセキュリティを解除するのに時間がかかっているなと思ったら、そういうことだったのか。
「そんなとこ、私なんかが通っていいんですか?」
「ええ、もちろん。僕の大切なお客様ですから」
少し歩くとエレベーターがあった。彼がボタンを押すと、すぐに扉が開いた。彼はホテルマンらしく先に乗り込み、恭しく私を迎え入れた。すでに最上階のボタンが押されている。
エレベーターを降り、案内されたのはスカイバーだった。昇っている間、少女漫画脳の私は「もしかして客室に連れ込まれたりするのでは……?」なんて想像して勝手に身構えていたのだけど、そういえば彼は「飲みに行きませんか」と声をかけてきたのだった。
「いらっしゃいませ。ようこそ当ホテル自慢のスカイバーへ。東京の美しい夜景と美味しいお酒をお楽しみください」
彼は演じるようにそう言って、私を窓際のボックス席のソファーへと案内した。バーの席は半分ほど埋まっていて、その多くは外国人だ。BGMにジャズが流れていて、窓からは宝石を散りばめたような夜景が望める。
私が腰を落ち着けると、彼は当然のように隣に座ってきた。テーブルの向かい側にもソファーがあるのに、だ。
「え。御園さん、そこに座るんですか?」
「言ったじゃないですか。明菜さんを口説くチャンス、強引にもらうって」
「それ本気だったの?」
「本気じゃないと思ってたんですか?」
私が迷わず頷くと、彼は困ったように眉を寄せて「これは口説き甲斐がありそうだ」と笑った。
お互いに炭酸の気分だということで、シャンパンで乾杯した。
「あら美味しい。フルーティーで、ちょっと辛め?」
「明菜さん、こちらへどうぞ」
駐車場の壁と同じ色で塗られた扉から建物の中へ入る。従業員用の出入り口かなと思ったのだが、それにしては床がふかふかだし、壁紙や照明がやけに豪華だ。
「あの、御園さん。この通路って……」
「VIPのお客様をご案内するための、専用動線です」
それを聞いてぎょっとした。顔の知られた芸能人や政財界の大物、国賓などを迎え入れるような高級ホテルには、彼らのプライバシーを守るための特別な通路があると、噂には聞いたことがあった。地味な色の扉の割にはセキュリティを解除するのに時間がかかっているなと思ったら、そういうことだったのか。
「そんなとこ、私なんかが通っていいんですか?」
「ええ、もちろん。僕の大切なお客様ですから」
少し歩くとエレベーターがあった。彼がボタンを押すと、すぐに扉が開いた。彼はホテルマンらしく先に乗り込み、恭しく私を迎え入れた。すでに最上階のボタンが押されている。
エレベーターを降り、案内されたのはスカイバーだった。昇っている間、少女漫画脳の私は「もしかして客室に連れ込まれたりするのでは……?」なんて想像して勝手に身構えていたのだけど、そういえば彼は「飲みに行きませんか」と声をかけてきたのだった。
「いらっしゃいませ。ようこそ当ホテル自慢のスカイバーへ。東京の美しい夜景と美味しいお酒をお楽しみください」
彼は演じるようにそう言って、私を窓際のボックス席のソファーへと案内した。バーの席は半分ほど埋まっていて、その多くは外国人だ。BGMにジャズが流れていて、窓からは宝石を散りばめたような夜景が望める。
私が腰を落ち着けると、彼は当然のように隣に座ってきた。テーブルの向かい側にもソファーがあるのに、だ。
「え。御園さん、そこに座るんですか?」
「言ったじゃないですか。明菜さんを口説くチャンス、強引にもらうって」
「それ本気だったの?」
「本気じゃないと思ってたんですか?」
私が迷わず頷くと、彼は困ったように眉を寄せて「これは口説き甲斐がありそうだ」と笑った。
お互いに炭酸の気分だということで、シャンパンで乾杯した。
「あら美味しい。フルーティーで、ちょっと辛め?」