一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます

 まるで今になって、何か大事なことに気づいたような顔。
「…… ちょっと待って」
「…… ?」
 湊さんの表情が、みるみる変わっていく。
 さっきまでの柔らかな空気が消えて、戸惑いと驚きが入り混じっていくのがわかった。
「彩乃って…… 」
 そこで言葉を切る。
 私を見る目が、ほんの少し揺れる。
 そして、何かを思い出したように眉を寄せた。
「…… 恋愛経験、なかったよな」
「…… うん」
 答えた途端、湊さんが片手で額を押さえた。
 その仕草を見て、どうしてそんな顔をするんだろうと思う。
「…… ってことは」
 小さく呟いてから、私を見る。
「…… 今の、初めて?」
「………… 」
 私は答えられなかった。
 恥ずかしくて、俯く。
 その瞬間、また唇に意識が向いた。
 触れた感触まで鮮明に思い出されて、ますます顔が熱くなる。
 それだけで答えになったらしい。
「…… ごめん」
「え…… 」
 思わず顔を上げる。
「本当にごめん。そこまで考えてなかった」
 湊さんの声には、さっきまでの余裕がなかった。
 本気で申し訳なく思っているのが伝わってくる。
 私が初めてだったことを知って、後悔しているんだろうか。
 そう思ったら、胸の奥が少しだけざわついた。
「ただ…… 」
 そこで言葉が止まる。
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