一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
「ただ?」
 恐る恐る顔を上げると、湊さんと目が合った。
 その目を見た瞬間、なぜか息をするのを忘れそうになった。
 さっきまで申し訳なさそうにしていたのに、その瞳には別のものが浮かんでいる。
 私には、それが何なのかわからない。
 ただ、逃げることもできずに見つめ返していると、
「彩乃が可愛くて」
「…… っ」
 胸が跳ねた。
 まるで心臓を直接掴まれたみたいだった。
 そんなことを、こんな真っ直ぐな目で言われるなんて思っていなかった。
「…… 無性に、キスしたくなった」
 あまりにも真っ直ぐに言われて、何も返せなくなる。
 耳まで熱くなっていくのが自分でもわかった。
 可愛かった。
 キスしたかった。
 その言葉だけが、頭の中で何度も繰り返される。
 まるで、そこだけ何度も再生されるみたいに。
 私を見て、可愛いと思った。
 そして、キスしたいと思った。
 それがどういう意味なのか、今の私にはまだわからない。
 ただ、嫌だったわけではない。
 むしろ、そう言われたことが嬉しいと思ってしまった自分に、戸惑っていた。
「だから…… 」
 湊さんが少し困ったように笑った。
「それで、キスした」
「…… 」
 その言葉は、とても簡単だった。
 なのに、胸の奥に深く落ちていく。
 言い訳をしているわけでもない。
 格好よく取り繕っているわけでもない。
 ただ、自分がそうしたかったからキスしたのだと、湊さんは言っている。
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