一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 昨夜のことが、また鮮明に蘇ってくる。
 初めて触れた唇。
 ほんの一瞬だったのに、今もそこに湊さんの感触が残っているような気がする。
 そして――
『彩乃が可愛くって……無性にキスしたくなった』
 耳元で囁かれたように、その言葉まで蘇った。
「……っ」
 頬が熱くなる。
 可愛かったから。
 キスしたかったから。
 湊さんは、そう言った。
 その意味を考え始めると、また胸が騒ぎ出す。
「水野さん?」
「な、何でもない!」
 慌てて答えると、小野さんが不思議そうに首を傾げた。
「そうですか?」
「うん。何でもないから」
 私は笑ってみせた。
 けれど、頭の中は昨夜のことでいっぱいだった。
 ――私は、どう受け止めればいい?
 
 いつまでも昨夜のことを考えている場合じゃない。
 今日は仕事だ。
 私は両手で頬をぱん、ぱん、と叩いた。
「よしっ」
 気合いを入れるように小さく呟いて、もう一度頬を叩く。
 大丈夫。
 今は仕事に集中しよう。
 そう自分に言い聞かせて、私は背筋を伸ばした。
 頭の中に浮かんでいた湊さんの顔を、無理やり追い出す。
 私は結婚相談所のカウンセラー。
 目の前の会員さんのことを考えるのが仕事だ。
 気持ちを切り替えるように一度深く息を吸い、カウンセリングルームのドアを開けた。
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