一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 椅子に腰を下ろして、ふとスマートフォンを手に取った。
 画面には、湊さんからメッセージが届いていた。
『今日は帰りが遅くなる』
 たったそれだけの短い連絡。
 なのに私は、胸の奥で小さく息を吐いた。
 …… よかった。
 そう思った自分に、少し驚く。
 別に、湊に会いたくないわけじゃない。
 ただ、どんな顔をして会えばいいのか、わからないのだ。
 あのキス以来、湊の顔を見ると、どうしてもあの瞬間を思い出してしまう。
 何事もなかったように振る舞える自信が、今の私にはなかった。
『わかりました』
 短く返信して、スマートフォンを伏せる。
 そして、何気なくデスクの上に置かれた卓上カレンダーに目を向けた。
 パーティーの日に、丸をつけてある。
 指で日付を数えてみる。 ―― 二週間を切っていた。
 あと、少し。
 この一か月が終われば、私たちは本当の夫婦ではなくなる。
 そう思ったはずなのに。
 なぜか、胸の奥がざわついた。
 私は何がしたいんだろう。
 湊と、この先どうなりたいんだろう。
 考えても、答えは出なかった。
< 119 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop