一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 それでも、止められなかった。
「昔、彼のことが好きだったんだろ?」
「……ちょっとだけ、です」
「そう」
 俺は一度、目を伏せた。
 そして、もう一度彩乃を見る。
「過去に彼のことが好きだったのかもしれない」
 自分でも驚くほど、声が低くなった。
「でも、今は俺が君の夫だ」
「……湊さん」
 その言葉を口にした瞬間、もう抑えられなかった。
 彩乃の頬に手を添える。
 驚いて目を見開いた彩乃に、ゆっくり顔を近づける。
 そして――唇を重ねた。
 今度は、迷わなかった。
 最初のキスとは違う。
 ただ触れるだけではなく、彩乃の反応を確かめるように、ゆっくりと深く唇を重ねる。
「……ん……」
 彩乃の身体から、力が抜けていく。
 逃げることもなく、ただ俺に身を預けている。
 そのことが嬉しくて、胸の奥が熱くなる。
 やがて唇を離す。
 彩乃は頬を赤くしたまま、ぼんやりと俺を見上げていた。
 その瞳を見ていると、もう一度抱き寄せたくなる。
 けれど、今はそれ以上しない。
 俺は彩乃を見つめたまま、低く呟いた。
「……今度は謝らないから」
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