一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 仕事では、話さなければわからない、と。
 相手が何を考えているのかなんて、言葉にしてもらわなければわからない。
 だから、ちゃんと会話をしよう、と。
 あのときの言葉が、今になって胸に刺さる。
 そうだ。
 私だって、同じことを言われた。
 なのに――。
 自分のことになると、何も聞けない。
 湊さんが何を考えているのかわからない。
 でも、それは湊さんが話してくれないからだけじゃない。
 私も、聞こうとしていない。
 聞くのが怖いから。
 もし「パーティーが終わったら、もう帰っていい」と言われたら。
 もし「今までありがとう」と言われたら。
 私は――。
 どうすればいいんだろう。
 胸の奥が、きゅっと痛くなった。
 私は俯いたまま、冷めかけたお茶を両手で包んだ。
 明後日になれば終わる。
 そう思っていたはずなのに。
 今は、その「終わり」が来ることが、怖くて仕方なかった。
 
 パーティー当日の午後。
 仕事の合間に、安田さんとの面談が入っていた。
 柴田さんのことを相談に来たのは、以前、柴田さん本人だった。安田さんが何を考えているのかわからない、自分のことをどう思っているのかもわからない。このままでは、彼女に嫌われてしまうのではないか。そんな不安を抱えていた柴田さんに、私は、まず自分の気持ちを言葉にして伝えてみてはどうかと話した。
 それからしばらくして、今度は安田さんが私の前に座っている。
「彩乃さん、この前はありがとうございました」
 安田さんは、以前の柴田さんから聞いていた印象とは違って、どこか晴れやかな表情をしていた。
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