一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
「こちらこそ。今日はどうされました?」
「柴田さんのことです」
 そう言って、安田さんは少し照れたように笑った。
「実は、あれから彼とたくさん話したんです」
「そうだったんですね」
「はい。今までだったら、私も聞きたいことがあっても、どう聞いていいのかわからなくて。彼も、自分のことをあまり話さない人だったので、私ばかりが考えすぎてしまっていたんだと思います」
 安田さんはそう話しながら、以前のことを思い出しているのか、ほんの少しだけ視線を落とした。それでも、その表情に不安の影はない。
「でも、あれから彼のほうから話してくれるようになって」
「柴田さんが?」
「はい。自分から、ちゃんと話したいって言ってくれて」
 その言葉に、私は自然と頬を緩めた。
 柴田さんが、自分の気持ちと向き合うことができたのだろう。相手が何を考えているのかわからないからと、一人で答えを出そうとするのではなく、自分から言葉にして確かめることができた。その結果、安田さんもまた、自分の中にあった気持ちを彼に伝えることができたのだと思う。
「それで、私も思っていたことを全部話しました。彼がどう思っているのかも聞いたし、私がどう感じていたのかも話して……」
 安田さんの表情が、ふっと柔らかくなる。
「気づいたら、すごくたくさん話していました」
「それは、よかったですね」
「はい。今まであった、わだかまりみたいなものが、なくなった気がします」
「そうですか」
 安田さんの顔には、以前のような迷いはなかった。
 きっと二人は、これからも何度もぶつかるのだろう。それでも、ちゃんと話すことができるようになったのなら、以前とは違う関係を築いていけるはずだ。そんなふうに思うと、私まで嬉しくなった。
「だから私……」
 安田さんが少し照れながら笑う。
「彼と結婚できたらいいなって、思っています」
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