一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 そう思うと、少しだけ不思議だった。
 一ヶ月前、私はここで一人で暮らしていた。
 湊さんの家に来たときだって、最初はこの部屋を自分の居場所だと思っていた。
 なのに今は、帰ってくる場所も、眠る場所も、自然と湊さんのいるところになっている。
 たった一ヶ月で、こんなにも生活は変わるものなのだろうか。
 自分でも驚いてしまう。
 けれど、不思議と嫌ではなかった。
 むしろ――落ち着く。
 湊さんと一緒にいることが、もう特別なことではなくなりつつある。
 朝起きて、隣に彼がいる。
 仕事から帰れば「おかえり」と言ってくれる。
 一緒に食事をして、くだらない話をして笑って、眠る。
 そんな何気ない毎日が、今の私には何より心地よかった。
 そして、ようやく一週間の慌ただしさが落ち着いた頃。
 私は久しぶりに、仕事に集中できる時間を取り戻していた。
 久しぶりに、落ち着いて仕事に向き合える一日だった。
 朝から会員さんとの面談が続き、交際中の方から届いたメッセージを確認したり、次のデートについて相談に乗ったりする。
 結婚相談所の仕事は、毎日同じように見えて、同じ日は一日としてない。
 誰かにとっては、ただの一回の面談でも、その人にとっては人生を左右する大切な時間になることもある。
 だから私は、今日も目の前の相談にひとつずつ向き合っていた。
 以前の私なら、結婚というものをどこか遠い場所から眺めていたのかもしれない。
 結婚したい人の気持ちを聞き、相手を探し、交際をサポートする。
 それが私の仕事だった。
 自分自身が、その輪の中に入ることなんて考えたこともなかった。
 けれど今は違う。
 結婚を決めるということが、どういうことなのか。
 誰かと暮らすということが、どんなふうに毎日を変えるのか。
 私は、自分自身のこととして少しずつ知り始めていた。
 そんなことを考えながらパソコンに向かっていると、デスクの横に人影が立った。
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