一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 私の前まで来た湊さんが、柔らかく笑う。
「待った?」
「ううん。今来たところ」
「そう」
 湊さんは当たり前のように私の手を取った。
 その手の温かさに、また胸がいっぱいになる。
「行こうか」
「うん」
 私たちは並んで歩き出した。
 駅前でタクシーを拾い、二人で後部座席に乗り込む。
 向かう先は、バー・ヴェイン。
 たっちゃんに、私たちが夫婦になったことを報告するために。
「……緊張してきた」
 私が呟くと、湊さんが笑った。
「俺も」
「湊さんも?」
「たっちゃん、何言い出すかわからないからな」
「ふふっ」
 想像しただけで、笑ってしまう。
 でもきっと、たっちゃんは喜んでくれる。
 そんな気がした。
 タクシーがゆっくりと夜の街を走っていく。
 私は隣に座る湊の手を握った。
 握り返された手が、何よりも確かな幸せを伝えてくれていた。

 タクシーを降りると、見慣れた店の看板が目に入った。
 バー・ヴェイン。
「行こう」
 湊さんに促され、私は店の扉を開けた。
「いらっしゃ――」
 カウンターの向こうにいたたっちゃんが、私たちを見て動きを止めた。
「……なんや」
 
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