一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 その事実を知った途端、なぜか落ち着かなくなった。
 今日、初めて会ったと思っていた人が、実は以前から私の存在を知っていた。
 そう考えると、さっきまでとは少しだけ湊さんの見え方が変わる。
「だから、前から彩乃さんには興味がありました」
「……え?」
「たつさんがよく話していたので。どんな人なのかな、と」
 湊はそう言って、少しだけ笑った。
 その笑顔を見て、私は一瞬、言葉を失った。
 興味があった。
 その言葉の意味を考えようとして、慌てて頭を振る。
 変な意味じゃない。
 きっと、たっちゃんからよく話を聞いていたから、どんな姪なのか気になったというだけだ。
 そう自分に言い聞かせる。
「だから、彩乃さんが嫌じゃないのであれば、俺に旦那役を引き受けさせてください」
 まっすぐに向けられた視線に、私は何も言えなくなった。
 会社を経営していて、長身で、イケメンで、別荘まで持っている。
 私がたっちゃんに話した、架空の旦那の条件。
 それを、目の前の湊はほとんどすべて満たしている。
 しかも、以前から私の存在を知っていた。
 もちろん、それだけで湊が私に特別な感情を抱いているわけではない。
 それでも――。
 存在しなかったはずの私の「夫」が、今、目の前にいる。
 まるで、私が口にした架空の人物が、そのまま現実になってしまったみたいだった。
 ありえない。
 そんなことが、本当にあるのだろうか。
 私は目の前の男性を見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。
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