一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 ――昨夜。
 湊さんが私の申し出を引き受けてくれると言ったあと、私は念のため、もう一度確認した。
「……本当に、一か月でいいんですか?」
 湊さんが少しだけ首を傾げる。
「一か月?」
「はい。会社の創立三十周年パーティーまでです」
 私にとっては、それだけで十分だった。
 パーティーで、みんなに夫を紹介できればいい。
 架空の夫が実在することを証明できれば、それ以上は望まない。
 それ以上のことを望んではいけないとも思っていた。
「お願いします」
 私は深々と頭を下げた。
「一か月。パーティーが終わるまで、お願いします」
 顔を上げると、湊さんが私を見つめていた。
 その視線にどんな意味があるのか、そのときの私にはわからなかった。
「……わかりました」
 そう言って、湊さんが右手を差し出した。
 一瞬、何を意味しているのかわからなかった。
 差し出された手を見つめていると、湊さんが少しだけ笑った。
「契約成立、ってことで」
「あ……はい」
 私は慌てて、その手を握った。
 大きくて、温かい手だった。
 その温度が、妙に印象に残った。
 たった一か月。
 パーティーが終わるまでの、期間限定の夫婦。
 私はそう思っていた。
「……なんや、俺、立会人みたいになっとるな」
 横から、たっちゃんが呆れたように呟いた。
「たっちゃんがいてくれてよかったよ」
「まあ、そらそうやけどな」
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