一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
「今さらって!」
「せやから言うたやろ」
 たっちゃんは笑いながら、ふと思い出したように言った。
「そうや、新婚さんのところ悪いけど、今度の土曜は湊と夜釣りに行くから」
「え? 釣り?」
 思わずたっちゃんと湊さんを交互に見る。
 今の話の流れから、なぜ夜釣りが出てくるのか。
 私にはさっぱりわからなかった。
「たつさん。さすがにキャンセルでしょ」
 湊さんが苦笑する。
「なんでやねん。前から約束しとったやろ」
「でも、新婚の俺が奥さんを置いて夜釣りに行くのは、どう考えても不自然じゃない?」
「……あ」
 たっちゃんが目を丸くする。
 私も少し遅れて、その意味を理解した。
 確かにそうだ。
 結婚したばかりの夫が、妻を家に置いて友人と夜釣りに出かける。
 しかも、まだ一緒に暮らし始めたばかりなのだ。
 周囲から見れば、どう考えても不自然に思われるだろう。
「そういうことか」
「そういうことです」
 湊さんは呆れたように笑った。
 そんな二人のやり取りを見ながら、私は思わず笑ってしまったが、二人の会話の意味をこの時はわかっていなかった。
 だからこんなふうに、くだらないことで言い合っている二人を見て、この時は少しだけ気持ちが軽くなった。
 それにしてもたっちゃんと湊さんは、昔からこういう関係なのだろうか。
 そんなことを考えながら、私は二人を眺めていた。
 が、そういうことってどういうことだろう?
 よく考えれば、私はまだ湊さんのことをほとんど知らない。
 好きなものも、苦手なものも。
休日をどう過ごしているのかも。
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