一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 それなのに、明日からは一緒に暮らす。
 そう考えると、また少しだけ不安になった。
「じゃあ、改めて」
 湊さんが私を見る。
「俺も一か月間、君との時間を楽しませてもらうよ」
 そして、少しだけ口元を緩めた。
「よろしくね、奥さん」
「……奥さんって」
 あの言葉が、今になって蘇る。
 たった一言だったのに、どうしてこんなにも耳に残っているのだろう。
 私は小さく呟いた。
 途端に、重い現実がのしかかってきた。
 私は本当に、あの人と一か月間、夫婦を演じるのだ。
 それまでなら、頭の中で考えていただけだった。
 パーティーまでの一か月。
 その間だけ、夫がいるように見せればいい。
 そう思っていた。
 けれど、今こうして「奥さん」と呼ばれてしまうと、それが急に現実味を帯びてくる。
 私は本当に、明日から湊さんと暮らす。
 しかも、相手は成瀬湊。
 会社を経営していて、長身で、イケメンで、別荘まで持っている。
 そんな人と、私が――?
「……大丈夫かな、私」
 さっきとは違う意味で、またため息が漏れた。
 私はプロフィールをファイルに挟むと、鞄に入れた。
 考えていても仕方がない。
 まずは一日、一日を乗り切るしかない。
 そう自分に言い聞かせながら、私はいつものように出勤した。
 仕事が始まれば、余計なことを考えずに済む。
 そう思っていた。
 実際、デスクに向かい、いつものように仕事を始めてしまえば、頭の中は仕事のことでいっぱいになった。
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