一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 やっぱり、仕事をしているときが一番落ち着く。
 そう思った。
 午前中の仕事を終え、午後からのカウンセリングに備えて、担当する会員の情報を確認する。
 今日の相談内容は、仮交際に進めなかった理由と、今後の対策について。
 相手の男性からは、断られた理由も聞いている。
 彼女は三十四歳。
 趣味はアイドルの推し活で、婚活に向けて控えるよう心がけていると本人は言っていたが、どの程度かは測りきれていない。
 そしてこれまで料理もほとんどしてこなかったらしい。
 私は資料に目を落としながら、今日の面談で何を伝えるべきかを頭の中で整理していった。
 もちろん、それだけが原因ではない。
 けれど、結婚後の生活を具体的に考えたとき、男性側が不安を感じたのは理解できる。
 いつもの私なら、ここから具体的なアドバイスをする。
 何が問題だったのか。
 何を変えれば、次のご縁につながるのか。
 多少耳の痛いことでも、必要ならきちんと伝える。
 それが私の仕事だ。
 会員本人が気づいていない部分に気づき、できるだけ傷つけない言葉を選びながら、それでも必要なことはきちんと伝える。
 それがカウンセラーとしての私の役割だと思っている。
 けれど――。
「……」
 今日は、なぜか言葉が出てこなかった。
 資料に書かれた彼女の情報を、もう一度見つめる。
 料理は得意じゃない。
 休日は家で過ごす。
 家事も、あまり得意ではない。
 それだけを見れば、特別珍しいことではない。
 それなのに、今日は妙に引っかかった。
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