一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 料理は得意じゃないし、休日は家で漫画を読んで過ごす。
 家事も、仕事を理由にしてつい後回しにしてしまう。
 ……これって、私とたいして変わらないじゃない。
 もちろん、私は推し活をしているわけではない。
 それでも、結婚相手から見れば、私だって十分に不安要素のある女性なのかもしれない。
 昨日までは、会員の立場からしか考えたことがなかった。
 けれど今は、自分自身が「結婚する側」に立っている。
 その違いを意識した途端、いつもなら迷わず言える言葉が、喉につかえた。
「もう少し、生活のことを……」
 そこまで言って、私は口を閉じた。
 何を偉そうに言っているんだろう。
 自分だって、まともな夫婦生活を送った経験なんてないのに。
 目の前の彼女に、これから結婚生活についてアドバイスをする。
 その言葉を自分自身に向けられたら、私は何と答えるのだろう。
 そんなことを考えてしまった。
 結局その日の私は、いつもよりずっと保守的なアドバイスしかできなかった。
 カウンセリングを終えてからも、妙な引っかかりが残った。
 いつもなら、「次はこうしてみましょう」と迷いなく言える。
 けれど今日は、自分の言葉に自信が持てなかった。
 仕事では、人の結婚についていくらでも語れる。
 なのに、自分のことになると、途端に自信がなくなる。
 昨日から、何度同じことを思っているんだろう。
 私は小さく息を吐いた。
 しかも――。
 明日からは、湊さんの家で暮らすことになっている。
 一か月だけの、期間限定の夫婦。
 そう決めたはずなのに。
 頭では割り切っているつもりでも、時間が近づくにつれて、少しずつ現実味が増している。
「……不安しかない」
 誰もいないデスクで、私は小さく呟いた。
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