一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 しかも、相手は湊さんだ。
 そう思うと、なんだか妙に緊張してしまう。
 私は小さく息を吐いて、気持ちを切り替えた。
「とりあえず……」
 考えていても仕方がない。
 私はキッチンへ向かった。
 大きなキッチンの前に立つ。
 改めて見ると、やっぱり広い。
 普段使っているキッチンなら、手を伸ばせばすぐに必要なものへ届くのに、ここでは一歩動くたびに少し新鮮な気持ちになる。
 私はとりあえず冷蔵庫を開けてみる。
「……わ」
 思わず声が出た。
 中には、肉や野菜、卵など、いろいろな食材が入っていた。
 きれいに整理されているわけではないけれど、必要なものはちゃんと揃っている。
「思っていたより、ずっとちゃんとしている……」
 冷蔵庫の中身を眺めながら、私はしばらく考えた。
 湊さん、ちゃんと自炊してるんだ……。
 勝手に、忙しい人だから外食ばかりなのかと思っていた。
 でも、こうして食材が揃っているということは、それなりに家で料理をすることもあるのだろう。
 知らなかった。
 昨日まで、湊さんのことなんてほとんど何も知らなかったのだから、当然といえば当然なのだけれど。
 こうして一緒に暮らし始めると、今まで見えなかったことが少しずつ見えてくる。
 私は冷蔵庫の扉を閉め、今度は棚を開けた。
 すると、カレーのルーが入っていた。
「……カレーにしよう」
 これなら、私でも失敗しない。
 何より、材料も揃っている。
 今日は初日なのだから、無理に頑張りすぎる必要はない。
 そう自分に言い聞かせながら、私は腕まくりをした。
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