一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
「……うん」
 思ったより、ちゃんとカレーになっている。
 自分で作っておきながら、少しだけほっとした。
 特別な料理ではない。
 けれど、初めてここで作った夕飯だと思えば、これで十分だろう。
 私は火を止め、鍋の蓋をした。
 あとは、湊さんが帰ってくるのを待つだけ。
 そう思って時計を見る。
 まだ少し時間がある。
 湊さんは七時頃には帰ると言っていた。
 仕事の都合で多少前後するかもしれないけれど、夕飯を作る時間としてはちょうどよかった。
 私は時計から視線を戻し、キッチンを見渡した。
 さっきまで何もなかった場所に、二人分の夕飯が用意されている。
 たったそれだけのことなのに、なんとなく落ち着かない。
 私は鍋の蓋をもう一度確認してから、ふと足元に視線を落とした。
 サンちゃんを見る。
 いつの間にかキッチンの入り口に座って、こちらをじっと見ている。
 そのつぶらな瞳が、まるで何かを訴えているように見えた。
「サンちゃんも食べたいの?」
 そう尋ねると、サンちゃんが首を傾げた。
 右に少し傾けたかと思えば、今度は反対側へ。
 その仕草があまりにも可愛くて、私は思わず笑ってしまう。
「ふふ。これは人間用だから、だめ」
 サンちゃんの頭を撫でる。
 すると、気持ちよさそうに目を細めた。
「ごめんね。サンちゃんのご飯は別だよ」
 そう言いながら、私はもう一度頭を撫でた。
 さっきまで一人でいることが心細かったのに。
 今は、この小さな存在がそばにいてくれるだけで、家の中の空気まで少し柔らかく感じられる。
 私はサンちゃんに笑いかけてから、リビングへ戻った。
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