一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 広い家の中に、カレーの匂いだけが漂っている。
 さっきまで一人でいることが心細かったはずなのに、今は少しだけ違って感じた。
 誰かが帰ってくる場所。
 そう思えるだけで、不思議と心細さが薄れていく。
 もちろん、私たちは本当の夫婦ではない。
 一か月だけの、期間限定の関係だ。
 それでも、こうして夕飯を作って、その人の帰りを待つということが、今までの私の生活にはなかった。
 だからだろうか。
 私は無意識に時計を見た。
 まだ七時には少し早い。
 なのに、また気になって時計を見る。
 それから、何となく玄関のほうへ視線を向けた。
 帰ってくる気配はない。
 当たり前だ。
 まだ時間になっていないのだから。
 それなのに、私はなぜか落ち着かなかった。
「……まだかな」
 呟いてから、私は自分で自分に驚いた。
 何を考えているんだろう。
 まだ一日目なのに。
 たった今日から始まったばかりなのに、もう帰りを待っているみたいじゃない。
 私は苦笑しながら、ソファに腰を下ろした。
 隣では、サンちゃんが当たり前のように私の足元へやってくる。
 その小さな身体を見つめながら、私は小さく息を吐いた。
 きっと、こういう生活にも、そのうち慣れていく。
 一か月だけなのだから。
 そう思っているのに――。
 なぜか、時計の針が進むのが少しだけ待ち遠しく感じられた。
 しばらくソファに座っていたけれど、なんとなく落ち着かない。
 時計を見る。
 もうすぐ七時だった。
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