一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
  大丈夫。
  私も、たぶん浮いていない。
  カジュアルすぎず、かといって気合いを入れすぎてもいない。
  そう思うと、胸の奥にあった緊張が少しだけほどけた。
 「ああ。今日は連れていこうと思って」
  湊さんはそう言って、サンちゃんの頭を撫でる。
 「いつも留守番させてるから、休みの日くらい一緒に出かけようかなって」
 「そうですね。サンちゃんも喜ぶと思いますよ」
  私が笑いかけると、サンちゃんが嬉しそうに尻尾を振った。
 「サンちゃんよかったね」
  その姿を見ているうちに、ふと気づいた。
  ――もしかして。
  私が恋愛経験に乏しいことを、湊さんは知っている。
  今日、二人きりで出かければ、会話が途切れることだってあるだろう。
  そんなとき、私が気まずくならないように……?
  私は湊さんを見た。
  けれど、彼は何も言わずにサンちゃんのリードを手に取っている。
  考えすぎかもしれない。
  それでも、もしそうだとしたら――。
  この人は、思っていた以上に優しいのかもしれない。
 「じゃあ、行こうか」
 「はい」
  湊さんが玄関へ向かう。
  私もそのあとを追い、靴を履いた。
  外へ出ると、朝の空気が思ったよりも心地よかった。
  家の中にいるときにはあれほど落ち着かなかったのに、外へ出てしまえば、少しずつ気持ちも落ち着いてくる。
  駐車場には、湊さんの車が停まっている。
  後部座席のドアが開けられ、サンちゃんが先に乗り込んだ。
 「サン、ちゃんと座って」
  湊さんが声をかける。
  私はその様子を見ながら、続いて私も後部座席に乗った。
< 71 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop