一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
「両親?」
「はい。まだちゃんと伺ったことがなかったので」
「ああ」
湊さんは少しだけ考えるように前を見た。
「父親が定年退職したのをきっかけに、昔からの夢だった田舎暮らしを始めたんだ。母親も乗り気だったみたいで、二人でさっさと移住しちゃったよ」
「そうなんですね」
「うん。今は二人でのんびり暮らしてる」
「仲がいいんですね」
「まあ、昔から仲はいいほうだったかな」
湊さんが笑う。
その笑顔を見ていると、普段、仕事をしているときにはあまり見えない一面が少しずつ見えてくるような気がした。
「妹もいるよ。俺より五つ下で、今は海外にいる」
「海外?」
「ガイドをしてるんだ。独身で、あちこち飛び回ってる」
「へえ……。すごいですね」
「昔から自由なやつだったからな」
どこか楽しそうに話す湊さんに、私は自然と頬を緩めた。
こうして家族の話をしている姿は、会社で見る彼とは少し違って見える。
「じゃあ、今のお家は……ご実家なんですか?」
「そう。親が田舎に移ることになったとき、売る予定だったんだけど、俺が住むことにした」
「もともとそこに住んでいたんですか?」
「いや。俺はタワマンに住んでた」
「え?」
「でも、サンちゃんを飼うなら、庭がある家のほうがいいだろ」
あまりにもさらりと言われて、私は思わずサンちゃんを見る。
「……サンちゃんのために?」
「ああ」
湊さんはバックミラー越しに、眠っているサンちゃんを見た。
「こいつ、走るの好きだから。庭があれば、好きなだけ走れるし」