一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
  湊さんが楽しそうに笑った。
 「たつさん、彩乃には昔からそんな感じ?」
 「そうですよ。私が子どもの頃から、知らん奴に説明するのめんくさいねんって」
 「へえ」
  湊さんはまた山へ視線を戻した。
 「たつさん、ああ見えて結構体力あるんだよ。なんなら俺以上に」
 「そうなんですか?」
 「ああ、甲斐駒ヶ岳のときも、俺より元気だった」
 「たっちゃんらしいというか、見た目もワイルドですもんね……」
  私は笑いながら、もう一度山を見上げた。
  その山に、たっちゃんと湊さんが並んで登っていた。
  そう思うと、なんだか不思議な気持ちになる。
  私の知らないところで、二人には私の知らない時間があったのだ。
  たっちゃんと湊さん。
  考えてみれば、二人が仲良くしていること自体も、私にとってはまだ少し不思議だった。
 「山って、何が楽しいんですか?」
  何気なく聞くと、湊さんは少し考えるように山を見つめた。
 「登ってるときは、もう二度と来るかって思うんだけどな」
 「え?」
 「頂上に着くと、また来たくなる」
 「ふふ」
 「変だろ?」
 「ちょっとだけ」
  そう答えると、湊さんが笑った。
 「でも、わかる気がします。こうやって見ると……登ってみたくなるかも。頂上から見る景色は素晴らしいんでしょうね」
  自分でも意外な言葉だった。
  私は、登山なんて自分には縁のないものだと思っていた。
  けれど、今こうして目の前に広がる景色を見ていると、その先にある景色を見てみたいという気持ちが少しだけ湧いてくる。
 「じゃあ、今度一緒に行く?」
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