一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 「え?」
 「初心者でも登れるところ、探しておくよ」
 「……私でも登れますか?」
 「大丈夫。最初から甲斐駒ヶ岳なんて連れていかないから」
  冗談めかして言われて、私は思わず笑った。
 「それなら……行ってみたいです」
  そう答えた瞬間、胸の奥がふわりと温かくなった。
  また、湊さんと出かける約束ができた。
  それが、なんだか嬉しかった。
  たった一言の約束なのに、心の中に小さな灯りがともったような気がした。
  プロフィールには、こんなことは書かれていなかった。
  紙に書かれた情報だけではわからないことが、少しずつ増えていく。
  そんなことを思いながら、足元に寄ってきたサンちゃんを見た。
 「もう一個、あげてもいいですか?」
 「いいよ。ただし、あげすぎると晩ご飯食べなくなるから」
 「はい」
  私が差し出したおやつを、サンちゃんがぱくっと食べた。
  そのまま私の足元にすり寄ってくる。
  すると、隣から湊さんの声がした。
 「……なんかさ」
 「はい?」
 「サンちゃんと彩乃、一緒に暮らし始めてまだ三日くらいだよな?」
 「そうですけど……?」
 「なのに、もう俺より仲よくなってない?」
 「え?」
  思わず湊さんを見る。
 「俺、結構長く一緒に暮らしてるんだけど」
  湊さんはサンちゃんを見ながら、少し不満そうに眉を寄せた。
 「……嫉妬するんだけど」
 「ふふっ」
  思わず笑ってしまう。
 「そんなこと言っても、サンちゃんは湊さんの方が好きですよ」
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