一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 私は慌てて返信する。
 ――ちょうど終わって、これから帰ろうと思ってます。
 すぐに既読がついた。
 ――近くにいるんだけど、一緒に帰らない?
「……っ」
 また、胸が跳ねた。
 一緒に帰る。
 たったそれだけのことなのに、どうしてこんなに嬉しいんだろう。
 私は急いでパソコンを閉じ、荷物をまとめた。
 会社を出ると、少し離れたところに湊さんが立っていた。
「湊さん」
 声をかけると、こちらに気づいて手を上げる。
「お疲れさま」
「お疲れさまです。近くにいたんですか?」
「うん。打ち合わせがあって」
 そう言って歩き出す湊さんの隣に並ぶ。
 それだけなのに、妙に緊張する。
 すると、すれ違う人たちがちらちらと湊さんを見ていることに気づいた。
 女性だけじゃない。
 男性まで振り返る人がいる。
 改めて隣から見ると、やっぱり目を惹く人だと思う。
 背が高くて、整った顔立ちをしていて、それでいて気取ったところがない。
 話し方も穏やかで、誰に対しても自然に接する。
 こういうところが、人を惹きつけるんだろうな。
 私はそんなことを考えながら、隣を歩いた。
 もし、あのパーティーに行かなかったら。
 もし、たっちゃんのお店に行かなかったら。
 私はきっと、この人とは一生出会うことなんてなかった。
 そう思うと、不思議な気持ちになった。
 人生の中で、ほんの少し違う選択をしていたら、今とはまったく違う毎日を過ごしていたのかもしれない。
 そう考えると、今こうして隣を歩いていることが、少しだけ特別なことのように思えた。
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