氷の君に、恋の歌を。
蓮斗は静かに乃愛を見つめる。

「でも、君が本当は歌いたいって思ってるのはわかる」

否定できなかった。

「俺、手伝う」

「どうして?」

その問いに、蓮斗は少しだけ視線をそらした。
それは今日初めて見る、彼の迷いの表情だった。

「君の歌、もう一度聞きたいから」

たったそれだけ。
たったそれだけなのに、胸が苦しくなるほど熱くなる。

完璧で、近寄りがたくて、氷みたいに冷たいと思っていた人。
その人が今、乃愛の歌を必要だと言ってくれている。

「……もし、また歌えなかったら?」

かすれる声で聞くと、蓮斗は迷わず答えた。

「そのときも、俺がいる」

夕暮れの中で交わされたその約束は、魔法みたいだった。

乃愛はぎゅっと胸の前で手を握る。
こわい。
でも、それでも。

この人がそばにいてくれるなら。
ほんの少しだけ、信じてみたいと思った。

「じゃあ……少しだけ」

「少しだけ?」

「練習、付き合ってくれる?」

蓮斗の目が、わずかにやわらぐ。

「ああ」

短い返事。
それだけで、十分だった。
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