氷の君に、恋の歌を。
最終章 夜が明けても、きみの隣で
中庭で歌ってから、乃愛の世界は少しずつ変わっていった。
学校ですれ違う生徒たちが、彼女の名前を知っている。
歌がすごかったと声をかけられることも増えた。
最初は戸惑っていた乃愛も、今では少し照れながら笑って受け止められるようになっていた。
それはきっと、自分の声を信じられるようになったから。
そして何より、どんなときも蓮斗が隣で見ていてくれたから。
蓮斗は相変わらず静かで、ぶっきらぼうで、でも乃愛にだけは驚くほど甘かった。
学校で誰かが乃愛に近づけば、さりげなく隣に立つ。
話しかけられすぎて困っていれば、当然みたいに連れていく。
独占欲を隠さないくせに、乃愛の才能そのものはまっすぐ認めてくれる。
もっと届くべきだと背中を押してくれる。
そのやさしさが、乃愛には何よりうれしかった。
雨の日、ひとつの傘の下で肩を寄せた帰り道。
放課後の教室で交わした、触れるたび胸が熱くなるキス。
帰り道で何気なくつながれる手。
何度もかわいいと囁かれて、恥ずかしくて逃げたくなるのに、心のどこかではずっとその声を待ってしまう自分。
そんな毎日のひとつひとつが、乃愛にとって大切な宝物になっていった。
けれど、変わったのは乃愛だけじゃなかった。
ある日、無理をした蓮斗が熱を出したとき。
いつも守ってくれる彼が、自分の前でだけ少し弱くなる姿を見て、乃愛は迷わず手を伸ばした。
帰り道を支えて、部屋まで送り届けて、眠るまでそばにいた。
大丈夫だよと、今日は私が守るねと伝えた。
そのとき乃愛は知った。
好きという気持ちは、守られるだけじゃなくて、守りたいと思うことでもあるのだと。
そして蓮斗もまた、そんな乃愛に何度も救われていた。
翌朝、熱が下がった彼は、静かな声でありがとうと言った。
乃愛がいてくれて安心したと。
かっこよかったと。
頼れると。
その言葉がうれしくて、乃愛の胸はやわらかく満たされた。
それからの放課後。
夕暮れの教室で、蓮斗は昨日のお礼だと言って乃愛を抱きしめた。
あたたかくて、やさしくて、離したくない気持ちがそのまま伝わる抱きしめ方だった。
好き。
そう言われて、乃愛も好きだと返した。
そして勇気を出して、自分からキスをした。
いつももらってばかりだった想いを、自分のほうからもちゃんと伝えたかったから。
驚いて、余裕をなくして、それでもうれしそうに乃愛を見つめる蓮斗の顔は、たぶん一生忘れられないと思った。
休日の街を歩いた日もそうだった。
少し背伸びしたカフェ。
夜景の見える場所。
学校の外でも、蓮斗の隣はやっぱりあたたかかった。
そして街の広場で、乃愛はもう一度歌った。
知らない人たちが足を止め、耳を傾け、歌声に引きこまれていく。
その景色は少し前の乃愛なら、きっと怖くてたまらなかったはずだ。
でも今は違う。
人の多い場所でも、知らない誰かの前でも、自分の声を届けたいと思えた。
その理由はたったひとつだった。
見ていてくれる人がいる。
信じてくれる人がいる。
帰る場所のように、自分の隣にいてくれる人がいる。
歌い終えた乃愛に、蓮斗は惚れ直したと真顔で言った。
みんなに見られて悔しいくらいきれいだったと、少し嫉妬しながら。
そんなふうに言われて、乃愛はまた笑ってしまった。
この人はきっとこれからもずっと、いちばん近くで見守ってくれるのだとわかったから。
デートの帰り、夜景の見える歩道橋で、蓮斗は改めて気持ちを伝えてくれた。
前から好きだった。
でも今は前よりもっと好きだと。
笑うたび安心して、歌うたび惚れ直して、照れるたび離したくなくなると。
想像していたより、ずっと深く好きだと。
その言葉は、初めての告白よりも甘くて、まっすぐで、胸の奥に静かに染みこんだ。
乃愛も伝えた。
自分も同じだと。
蓮斗の隣にいると安心して、どきどきして、もっと一緒にいたいと思うのだと。
何回でも好きだと言えるくらい、大切なんだと。
そして家の近くまで来た夜。
帰さなきゃいけないのに、もう少しだけ一緒にいたいと蓮斗がこぼした。
乃愛も同じ気持ちだった。
だから最後に抱きしめ合って、次はもっと長く一緒にいようと約束した。
おやすみの前に、乃愛はそっと背伸びをして、触れるだけのキスをした。
今日一日の好きを全部込めるみたいに。
最後までずるい。
困ったみたいにそう笑う蓮斗の表情が、どうしようもなく愛しかった。
乃愛はもう知っている。
自分の歌は、誰かの心を動かせる。
怖いだけのものじゃない。
ちゃんと届く力になる。
そして蓮斗の隣は、自分がいちばん素直でいられる場所だということも。
蓮斗もまた知っている。
乃愛は守りたくなるだけの存在じゃない。
自分が弱ったとき、そっと手を差し伸べてくれる強さを持っている。
やわらかくて、まっすぐで、何度でも好きになってしまう存在だということを。
放課後の教室。
雨の日の帰り道。
夕暮れの駅。
夜景の下。
何気ない毎日の中で重ねたぬくもりは、少しずつふたりの恋を育てていった。
好きだと伝えるたびに、もっと好きになる。
触れるたびに、もっと大切になる。
支え合うたびに、隣にいる意味が深くなる。
たぶんこれから先も、簡単なことばかりじゃない。
不安になる日も、すれ違いそうになる日もあるかもしれない。
それでもきっと大丈夫だと、乃愛は思えた。
うれしいときも。
こわいときも。
立ち止まりそうなときも。
朝が来ても、夜になっても、隣を見れば蓮斗がいる。
蓮斗もまた、そこに乃愛を見つける。
だからふたりは、何度でも歩いていける。
歌声が未来へ響くように。
まっすぐな想いが、何度でも心に届くように。
恋はこれからも、やさしく甘く続いていく。
夜が明けても、きみの隣で。
その約束みたいな想いを胸に、ふたりは今日もまた、同じ明日へと歩き出すのだった。
学校ですれ違う生徒たちが、彼女の名前を知っている。
歌がすごかったと声をかけられることも増えた。
最初は戸惑っていた乃愛も、今では少し照れながら笑って受け止められるようになっていた。
それはきっと、自分の声を信じられるようになったから。
そして何より、どんなときも蓮斗が隣で見ていてくれたから。
蓮斗は相変わらず静かで、ぶっきらぼうで、でも乃愛にだけは驚くほど甘かった。
学校で誰かが乃愛に近づけば、さりげなく隣に立つ。
話しかけられすぎて困っていれば、当然みたいに連れていく。
独占欲を隠さないくせに、乃愛の才能そのものはまっすぐ認めてくれる。
もっと届くべきだと背中を押してくれる。
そのやさしさが、乃愛には何よりうれしかった。
雨の日、ひとつの傘の下で肩を寄せた帰り道。
放課後の教室で交わした、触れるたび胸が熱くなるキス。
帰り道で何気なくつながれる手。
何度もかわいいと囁かれて、恥ずかしくて逃げたくなるのに、心のどこかではずっとその声を待ってしまう自分。
そんな毎日のひとつひとつが、乃愛にとって大切な宝物になっていった。
けれど、変わったのは乃愛だけじゃなかった。
ある日、無理をした蓮斗が熱を出したとき。
いつも守ってくれる彼が、自分の前でだけ少し弱くなる姿を見て、乃愛は迷わず手を伸ばした。
帰り道を支えて、部屋まで送り届けて、眠るまでそばにいた。
大丈夫だよと、今日は私が守るねと伝えた。
そのとき乃愛は知った。
好きという気持ちは、守られるだけじゃなくて、守りたいと思うことでもあるのだと。
そして蓮斗もまた、そんな乃愛に何度も救われていた。
翌朝、熱が下がった彼は、静かな声でありがとうと言った。
乃愛がいてくれて安心したと。
かっこよかったと。
頼れると。
その言葉がうれしくて、乃愛の胸はやわらかく満たされた。
それからの放課後。
夕暮れの教室で、蓮斗は昨日のお礼だと言って乃愛を抱きしめた。
あたたかくて、やさしくて、離したくない気持ちがそのまま伝わる抱きしめ方だった。
好き。
そう言われて、乃愛も好きだと返した。
そして勇気を出して、自分からキスをした。
いつももらってばかりだった想いを、自分のほうからもちゃんと伝えたかったから。
驚いて、余裕をなくして、それでもうれしそうに乃愛を見つめる蓮斗の顔は、たぶん一生忘れられないと思った。
休日の街を歩いた日もそうだった。
少し背伸びしたカフェ。
夜景の見える場所。
学校の外でも、蓮斗の隣はやっぱりあたたかかった。
そして街の広場で、乃愛はもう一度歌った。
知らない人たちが足を止め、耳を傾け、歌声に引きこまれていく。
その景色は少し前の乃愛なら、きっと怖くてたまらなかったはずだ。
でも今は違う。
人の多い場所でも、知らない誰かの前でも、自分の声を届けたいと思えた。
その理由はたったひとつだった。
見ていてくれる人がいる。
信じてくれる人がいる。
帰る場所のように、自分の隣にいてくれる人がいる。
歌い終えた乃愛に、蓮斗は惚れ直したと真顔で言った。
みんなに見られて悔しいくらいきれいだったと、少し嫉妬しながら。
そんなふうに言われて、乃愛はまた笑ってしまった。
この人はきっとこれからもずっと、いちばん近くで見守ってくれるのだとわかったから。
デートの帰り、夜景の見える歩道橋で、蓮斗は改めて気持ちを伝えてくれた。
前から好きだった。
でも今は前よりもっと好きだと。
笑うたび安心して、歌うたび惚れ直して、照れるたび離したくなくなると。
想像していたより、ずっと深く好きだと。
その言葉は、初めての告白よりも甘くて、まっすぐで、胸の奥に静かに染みこんだ。
乃愛も伝えた。
自分も同じだと。
蓮斗の隣にいると安心して、どきどきして、もっと一緒にいたいと思うのだと。
何回でも好きだと言えるくらい、大切なんだと。
そして家の近くまで来た夜。
帰さなきゃいけないのに、もう少しだけ一緒にいたいと蓮斗がこぼした。
乃愛も同じ気持ちだった。
だから最後に抱きしめ合って、次はもっと長く一緒にいようと約束した。
おやすみの前に、乃愛はそっと背伸びをして、触れるだけのキスをした。
今日一日の好きを全部込めるみたいに。
最後までずるい。
困ったみたいにそう笑う蓮斗の表情が、どうしようもなく愛しかった。
乃愛はもう知っている。
自分の歌は、誰かの心を動かせる。
怖いだけのものじゃない。
ちゃんと届く力になる。
そして蓮斗の隣は、自分がいちばん素直でいられる場所だということも。
蓮斗もまた知っている。
乃愛は守りたくなるだけの存在じゃない。
自分が弱ったとき、そっと手を差し伸べてくれる強さを持っている。
やわらかくて、まっすぐで、何度でも好きになってしまう存在だということを。
放課後の教室。
雨の日の帰り道。
夕暮れの駅。
夜景の下。
何気ない毎日の中で重ねたぬくもりは、少しずつふたりの恋を育てていった。
好きだと伝えるたびに、もっと好きになる。
触れるたびに、もっと大切になる。
支え合うたびに、隣にいる意味が深くなる。
たぶんこれから先も、簡単なことばかりじゃない。
不安になる日も、すれ違いそうになる日もあるかもしれない。
それでもきっと大丈夫だと、乃愛は思えた。
うれしいときも。
こわいときも。
立ち止まりそうなときも。
朝が来ても、夜になっても、隣を見れば蓮斗がいる。
蓮斗もまた、そこに乃愛を見つける。
だからふたりは、何度でも歩いていける。
歌声が未来へ響くように。
まっすぐな想いが、何度でも心に届くように。
恋はこれからも、やさしく甘く続いていく。
夜が明けても、きみの隣で。
その約束みたいな想いを胸に、ふたりは今日もまた、同じ明日へと歩き出すのだった。


