氷の君に、恋の歌を。
一宮蓮斗。
この学校で知らない人はいない、完璧なイケメン。

先生が小さく笑う。

「森下さん、あの子も同じクラスですよ。成績優秀で、先生たちも助かってるんです」

同じクラス。
それだけ聞いただけなのに、なぜか少しだけ心が落ち着かない。

蓮斗は乃愛たちの前を通り過ぎる。
そのまま行ってしまうと思ったのに、ふいに足を止めた。

そして、静かな瞳が乃愛をまっすぐ映す。

「今、歌ってた?」

「えっ……」

乃愛は肩を揺らした。
緊張をまぎらわせるように、無意識に小さく口ずさんでいたらしい。

蓮斗はじっと乃愛を見つめたまま、低く澄んだ声で言う。

「きれいな声だった」

そのひと言が、胸の奥にまっすぐ落ちてくる。

誰にも触れられたくなかった場所を、初対面の彼は簡単に見つけてしまった。

「……ありがとう、ございます」

やっとそれだけ返すと、蓮斗は少しだけ目を細めた。
笑ったわけではない。
けれどその一瞬、氷みたいな印象がやわらいだ気がした。

「一宮。先に教室行ってなさい」

先生に言われ、蓮斗は短くうなずく。
去っていく背中を見つめながら、乃愛の鼓動はなかなか静まらなかった。
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