氷の君に、恋の歌を。
でも蓮斗は、驚いた顔も同情する顔もしなかった。
ただ静かに聞いてくれた。

「そうか」

短いそのひと言が、逆にやさしかった。

「朝の歌、すごくきれいだった」

また、同じことを言う。

乃愛は困ったように笑う。

「一宮くん、そればっかり」

「本当のことだから」

さらっと返されて、乃愛の心臓がどきっと跳ねた。

彼はこんなに無表情なのに、ときどき言葉だけがずるい。
まっすぐすぎて、逃げられない。

「俺、音楽のことは詳しくない。でも」

蓮斗は少しだけ間を置いた。

「こわくて震えてる声と、きれいな声の違いくらいはわかる」

「……え?」

「君の声は、まだちゃんと好きが残ってる音だった」

乃愛は息をのむ。

そんなふうに言われたのは、初めてだった。

失敗した日からずっと、自分の歌は終わったのだと思っていた。
もう誰にも届かない。
そう決めつけていた。

なのに彼は、まるで当たり前みたいに、乃愛の中に残っている想いを見つけてしまう。

「一宮くんって、ほんとは優しい人なんだね」

気づけば、そんな言葉がこぼれていた。
< 7 / 12 >

この作品をシェア

pagetop