氷の君に、恋の歌を。
家の近くまで来るころには、空はすっかりやわらかな藍色に変わっていた。
それでも蓮斗は、最後まで手を離さない。

「今日は、ありがとな」

「え?」

「昨日の看病も、今日のあれも」

今日のあれ。
きっと、乃愛からしたキスのことだ。

「……どういたしまして」

照れながら返すと、蓮斗は少しだけ笑った。

「またして」

「えっ」

「乃愛から」

真顔でそんなお願いをするなんて反則だ。
乃愛は真っ赤になりながら、視線を泳がせる。

「む、無理かも……」

「そのうちでいい」

「気長だね」

「乃愛のことなら待てる」

その言葉がやさしくて、甘くて、胸がいっぱいになる。

今日の帰り道は、いつもよりずっと短く感じた。
それはきっと、好きが増えたぶんだけ、隣にいる時間が愛しくなったからだ。
< 88 / 114 >

この作品をシェア

pagetop