ぽっちゃりでもいいですか ~私と御曹司のダイエット日記~
 それに......誠さんもダイエットした私を見て「綺麗になったね」って言ってくれたりとか......。そこまで考えてはっとする。誠さんからの言葉を期待するなんて。私がダイエットしたいのはワンピースが着たいから。決して誠さんに褒められたいからでは......。
 ちょっと考え込んでしまった。もうひとりの自分が「だって誠さんに褒められたらうれしいじゃない」とさかんに言っている。
 う。それはそうなんだけど。
「芙美さん、最初はうまくできるかなって心配になるけど、やってみたら意外と簡単と思うと思いますよ。じゃあ、これから一緒に食材買いにいきましょうか。基本のレシピにプラスアルファできることとか教えたいので」
 私は真下さんとスーパーへ赴き、野菜スープの食材を揃えた。今は秋で夏ほど暑くないので、たっぷり鍋に作っておいて台所に置いておいて、食べる時に火を通せばいいそうだ。
 真下さんの言葉はひとつひとつが的確で、直感でしかないけれど、この人ならついていけそう、と改めて思った。
 そう「食べろ食べろ攻撃」が無くなって、変ったことがもうひとつ。大量に食べていたときは、体の中心が腸にあって、早く消化しないかな」「体が重くて何もしたくない」そんなマイナスな思考しかなかった。でも誠さんと暮らすようになって食事の量を食べたいだけにしたので、気分がとても前向きになる。
 さらに直感とか閃きが鋭くなった。
 今までは新しく何かやることに対して、とても面倒くさかったり億劫だったりした。
 でも最近の私は思いついたら「すぐにやってみよう」「ほかに方法はないかな」なんて建設的な考え方ができるようになっている。
 本で脳と腸はつながっているとあるのを読んだことがあるけれど、本当かもしれない。
「それでは一週間、がんばってみてくださいね。結果、期待しています」
 さわやかな笑顔で真下さんが言った。私はなんだか気持ちがわくわくしてきて「ありがとうございます。がんばります」と言って頭を下げてお別れした。

 ゆうきくんをお迎えに行ってしばらく遊んでから夕飯を食べた。その後一緒にアニメを観ていたら夕方しっかり遊んでいたせいか、うとうとしだしてお布団に寝かせるとすうっと寝てしまった。もっと起きてたい、とぐずるかと思ったけれど、ゆうきくんは基本的に自分の感覚に忠実なようだ。眠くなったら眠る、というようなシンプルな思考。悠矢さんがそういうタイプなのか、悠矢さんが躾たのか。
 何にせよゆうきくんが寝てくれるとやっと大きなミッションが完了した気分になる。
「さて。これからは自分の時間」
 早速、私は今日買った材料で野菜スープを作った。野菜はたくさん刻むけれど十分もかからない。最後のトマト缶とコンソメを入れて二十分煮込めばもうできてしまった。
 うん、簡単だ。これなら続きそう。
 ちょうどそこに誠さんが帰宅した。誠さんがお風呂に入っている間に夕食を温めてテーブルに並べる。今日は鮭のバター焼きにきんぴらごぼう、ほうれん草の白和えとご飯、小松菜とおあげの味噌汁。最初は誠さんが食べれる量がイメージできなくて難しかったが、定食風がいいな、とアドバイスをもらってからメインと小鉢、という感じに落ち着いた。
「ああ、今夜も美味そうだ。いただきます」
 お風呂上がりのさっぱりした誠さんが嬉しそうに要った。こんな風に言われるとモチベーションがあがってとてもいい。
「うん。美味い。きんぴらにごまがかかってるのもすごくいい。あれっ」
 具体的に褒めてもらって喜んでいると誠さんが私の方を見て声をあげた。
「芙美さん、それだけなのか?また無理をしてるんじゃ」
「あ、違うんです。今日、誠さんが紹介してくれた真下さんにお会いして、このスープを三食食べるよう指導を受けたんです」
「へえ。トマトのスープか...物足りなくないか」
「いえ、キャベツにピーマン、人参、セロリっていろいろ入ってるんですよ。食べ応えがあるし、おかわりもしていいんです。コンソメ味なのでちゃんと食べやすい、美味しい味です」
「そうか。ならよかった。でも栄養面が偏らないか」
 私は今日真下さんに習ったことを誠さんに説明した。
「そうか肉や果物を食べれる日があったりとするんだな。確かにこれだったら続きそうだ」
「はい。とりあえず一週間。がんばってみます。来週また真下さんに会っていい報告ができるように」
 それからしばらくは今日のゆうきくんについて話した。
「今日はうちの中でかくれんぼをしたんですよね。ゆうきくんたら衣装ケースの中に隠れてて、探すの大変でした」
「あのスペースに入るのか、そりゃ気づかないな。どうやって見つけたんだ」
「近づいたらゆうきくんがクスクス笑ってる声が聞こえたんです」
「ははは。ゆうきも落ち着いているようでやっぱり子供だな。うん、芙美先生のおかげでのびのび子どもらしくなってるのかもしれないな」
 私は誠さんの食べ終えた食器をキッチンへ運んで洗おうとしていた。
 すると、ふわっと後ろから誠さんに抱きしめられた。
「えっ......」
「疲れてるんじゃないか?気を張った顔をしてる」
「いえ。いろんな事が楽しいので、私、なんでもチャレンジできそうな気しかしないんです。実家にいた頃は自分で暗くならないよう自分を励ましてたけど、今はそんなこと必要なくて。したいことをすればいいんだなあって。本当に誠さんに感謝しています」
「感謝は......言葉だけ?」
 どういう意味だろう、と視線が絡んだ、と思ったら誠さんは私の唇を唇で塞いでいた。この間のかするだけの軽いキスではなかった。誠さんの唇が角度を変えて私の唇を食む。
 私はその間、心臓が早鐘を打っているようになっていて、ドキドキして頭がくらくらしていた。手はどうすればいいかわからなくて両手を握りしめた。
 勢い、体がカチコチに固まってしまった。私の唇を食む誠さんの息遣いが間近でわかってそれにもドキドキしてしまう。
 どうすればいいんだろう、と思いあぐねていると、ふっと身体が離れた。
「ダメだな。自制が効かなくなる」
 私は喉がカラカラに乾いていた。
 じせい......じせいってなんだろう......とぼんやり思う。
「このまま一緒にいると何するかわからない。部屋で休むよ」
 そう言って誠さんの自身の寝室へ行ってしまった。
 私は食器の残りを洗いながら、顔が熱いのが落ち着くのを待った。
 触れた唇がじんじんする。
 キスってこんな感じなんだ。
 あのまま誠さんがキスを続けていたら、私どうなってたんだろう......。
 全く未知の領域で、わからないことしかない。
 食器を洗い終えて、コップに一杯の冷たい水を飲んだ。
 水の冷たさで少し冷静になれる。私が考えるべきことは......。
 誠さんのキスが嫌じゃないこと。つまり私は......誠さんのことが好きなんじゃないだろうか。

 誠さんとゆうきくんとの三人の生活を始めてから、二か月が過ぎた。
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