ぽっちゃりでもいいですか ~私と御曹司のダイエット日記~
数日後。翌日、悠矢さんがゆうきくんを迎えに来るので、ゆうきくんと一緒に持ち物の整理をした。誠さんは甥がかわいくてずいぶんをゆうきくんにもちゃを買ってあげていた。大きな段ボールひとつ分になってしまった。
「誠おじさんにいっぱい買ってもらったねえ」
ゆうきくんも私の真似をして、積み木なんかを箱に入れてくれる。
ふと、ゆうきくんがアライグマのぬいぐるみを手にしているのに気づいた。
こんなの、誠さん、買ってたかな。
「ゆうきくん、そのぬいぐるみどうしたの?」
「これはね、ユリからもらったの」
「ユリちゃん。幼稚園のお友達かな?」
そういえば高田百合ちゃん、という子がどんぐり園にいる。
「ううん。おじさんのこいびとだよ」
「えっ」
頭がくらっとした。
真下先生が言っていた結婚式の話。それは、その百合さんという恋人と結婚する、ってことなのだろうか。
「そ、その人、どんな人?」
思わずゆうきくんにきいてしまった。
「えっとね。背が高いひと。芙美ちゃん先生、ジュース飲みたい」
「あ、うん。ちょっと待っててね」
キッチンに行きながら喉がカラカラに渇いてきた。辻褄があってしまう符号。
私、どうしたらいんだろう......。
きけばいいんだ、誠さんに。ユリさんって恋人がいるんですかって。
誠さんはいつものように微笑んで「うん」って言うかもしれない。
心の中で不安に押しつぶされそうになりながらゆうきくんの荷物をまとめた。その日の夜は誠さんの帰宅が遅く、顔を合わせることはなかった。
翌日の夕方、悠矢さんがやってきた。今日はこれから静岡の方へ行き、亡くなった奥さんのご実家に泊まり、翌日ニューヨークへ行く流れになっている。
玄関で靴を履いている時に、ゆうきくんが私をじっと見つめた。
「芙美ちゃん先生ともお別れ、なの?」
今日、ゆうきくんはどんぐり園でお友達とお別れ会をやった。ニューヨークに行くということの意味はなかなか理解しがたいだろうが、皆とさよならすることはぼんやりわかったみたいだ。
「うん。先生、ゆうきくんにお手紙書いていいかな?ゆうきくんにも書いてほしいな」
「ぼく、お手紙書く」
そう言ってゆうきくんはがしっと私に抱きついてきた。頭や肩を撫でながら、こんなかわいらしい子ともう会えないなんて悲しすぎる。いや、でもつながりは消えない。お手紙だって出せるし、いざとなったら電話だって。そう自分に言い聞かせる。
ゆうきくんは泣きそうになっていたけど、泣かなかった。
本当に気丈な子なんだな、と感心する。私の気持ちはいっそう切なくなったけれど。
ちょうどよく、誠さんが帰宅した。誠さんもゆうきくんと離れるのが寂しくて、がんばって仕事を切り上げてきたのだろう。
「ゆうき、なにか困ったことがあったらおじさんに電話しな」
「うんっ」
傍からみても、仲のいい叔父さんと甥っ子だった。ゆうきくんは誠さんにもぎゅっとだきついた。いつまでもそうしていたかったろうが、静岡行きの時間が迫ってきた。
「誠、芙美さん。この二か月本当にありがとうございました。お二人にゆうきをみてもらえて本当によかった。安心してニューヨークで働くことができました。御礼はいくら言っても足りないくらいです」
それから悠矢さんは私の銀行口座にお金を振り込んだ、と言った。決して少なくない額だ。
「そんな。お金なんて」
私の生活費は十分、誠さんが世話してくれてるのに。
「いや。こういう事くらいさせてください。けじめというか。俺の感謝をどう伝えたらいいかな、って考えてこうなりました。どうか受け取ってください」
私はどうすればいいかわからず誠さんを見上げた。
「受け取っていいと思うよ。芙美さんはがんばってた。それに見合う報酬だよ」
そうだろうか......。悠矢さんのせっかくのご厚意を無下にすることもできず、いただく方向で落ち着いた。
「芙美先生、おじさん、バイバイ」
小さな手を振りながら、ゆうきくんとお別れした。
この二か月ずっと一緒だったゆうきくんとこれでお別れなんて実感がわかない。こうなると心の準備をしてきたつもりだったけど、明日また「ただいま」と帰ってくるんじゃないかって思ってしまう。
ゆうきくんがいなくなったリビングで私と誠さんは差し向かいで夕食をとった。いつものように私の作った料理を美味しいと言ってくれてありがたい。
私は野菜スーププラス魚の日だったので、焼き鮭を食べていた。普段ならお魚の美味しさに頬をほころばせているところなのだが、そうもいかない。明後日から誠さんはシンガポール出張。それが終わったらいよいよ私の身の振り方が決まる。
早く知ってしまいたいような、もっと引き延ばせたらいいのに、という気持ちがせめぎ合う。
「芙美さん、明日の日曜日、何か予定はある?」
誠さんが食べるのを一旦やめて私に言う。
「え?明日は特に、何もないです」
この二か月、休日はゆうきくん中心だったので、自分の予定を入れる、ということを忘れていた。
「じゃあ、俺とデートして。明日はシンガポール行きの前日で仕事を入れてないんだ」
「デート?」
思わず目を見張ってしまう。思いがけないお誘いだ。
「そう。ゆうきの世話お疲れ様会っていうのかな。君を労いたいんだよ」
「は、はあ......」
「じゃ、決まりだな。十時には部屋を出るから準備しておいて」
そう言って食事を終わらせて、誠さんは入浴しに行ってしまった。
取り残された私は、ぼんやりしてしまったが、なに着てけばいいんだろう?と慌てて考え出した。
翌日、誠さんが午前中に連れて行ってくれたのはデパートだった。迷わない足取りで誠さんが歩いて行くのでついていく。
え、婦人服売り場?
「芙美さん、俺が買ってやった服、もう大きいだろう。サイズダウンしたのを買わないとな」
私は誠さんが以前ブティックで買ってくれた水色のワンピースをベルトをして着ていた。そうなのだ、実は五キロ痩せたので微妙にゆるいのだ。誠さんはそんなことまで抜け目ないんだなあ、と感心する。
「これがいいな。似合うと思う」
ベージュに黒の小さな水玉模様の優しい感じのワンピース。
で、でも私の身体で入るだろうか?!
不安な表情をしていると女性の店員さんから試着室へ案内された。
おそるおそる着てみると......パツパツじゃない。着れてる。
「着、着れました」
思わず試着室から出て誠さんに言ってしまった。嬉しい。もうマネキンに着せられてる服を選べるんだ。
「そうだろう。俺の見立て通りだ。うん、やっぱりよく似合ってる。タグを切ってもらって。それでデートしよう」
「あ、ありがとうございます」
気に入った服で誠さんとデートできるなんて最高だ。
「こうでもしないと芙美さんは新しい服を買わないから」
「だって誠さんが買ってくださったお洋服って素敵なのばかりで、とても無下にできません」
芙美さんらしい、と誠さんは笑ってランチに行こう遅れる、と私の手を取った。
どきん、と心が揺れる。手をつなぐの、初めてだ。
お昼はアンティークの家具が素敵なカフェで二人でガレットを食べた。
「誠おじさんにいっぱい買ってもらったねえ」
ゆうきくんも私の真似をして、積み木なんかを箱に入れてくれる。
ふと、ゆうきくんがアライグマのぬいぐるみを手にしているのに気づいた。
こんなの、誠さん、買ってたかな。
「ゆうきくん、そのぬいぐるみどうしたの?」
「これはね、ユリからもらったの」
「ユリちゃん。幼稚園のお友達かな?」
そういえば高田百合ちゃん、という子がどんぐり園にいる。
「ううん。おじさんのこいびとだよ」
「えっ」
頭がくらっとした。
真下先生が言っていた結婚式の話。それは、その百合さんという恋人と結婚する、ってことなのだろうか。
「そ、その人、どんな人?」
思わずゆうきくんにきいてしまった。
「えっとね。背が高いひと。芙美ちゃん先生、ジュース飲みたい」
「あ、うん。ちょっと待っててね」
キッチンに行きながら喉がカラカラに渇いてきた。辻褄があってしまう符号。
私、どうしたらいんだろう......。
きけばいいんだ、誠さんに。ユリさんって恋人がいるんですかって。
誠さんはいつものように微笑んで「うん」って言うかもしれない。
心の中で不安に押しつぶされそうになりながらゆうきくんの荷物をまとめた。その日の夜は誠さんの帰宅が遅く、顔を合わせることはなかった。
翌日の夕方、悠矢さんがやってきた。今日はこれから静岡の方へ行き、亡くなった奥さんのご実家に泊まり、翌日ニューヨークへ行く流れになっている。
玄関で靴を履いている時に、ゆうきくんが私をじっと見つめた。
「芙美ちゃん先生ともお別れ、なの?」
今日、ゆうきくんはどんぐり園でお友達とお別れ会をやった。ニューヨークに行くということの意味はなかなか理解しがたいだろうが、皆とさよならすることはぼんやりわかったみたいだ。
「うん。先生、ゆうきくんにお手紙書いていいかな?ゆうきくんにも書いてほしいな」
「ぼく、お手紙書く」
そう言ってゆうきくんはがしっと私に抱きついてきた。頭や肩を撫でながら、こんなかわいらしい子ともう会えないなんて悲しすぎる。いや、でもつながりは消えない。お手紙だって出せるし、いざとなったら電話だって。そう自分に言い聞かせる。
ゆうきくんは泣きそうになっていたけど、泣かなかった。
本当に気丈な子なんだな、と感心する。私の気持ちはいっそう切なくなったけれど。
ちょうどよく、誠さんが帰宅した。誠さんもゆうきくんと離れるのが寂しくて、がんばって仕事を切り上げてきたのだろう。
「ゆうき、なにか困ったことがあったらおじさんに電話しな」
「うんっ」
傍からみても、仲のいい叔父さんと甥っ子だった。ゆうきくんは誠さんにもぎゅっとだきついた。いつまでもそうしていたかったろうが、静岡行きの時間が迫ってきた。
「誠、芙美さん。この二か月本当にありがとうございました。お二人にゆうきをみてもらえて本当によかった。安心してニューヨークで働くことができました。御礼はいくら言っても足りないくらいです」
それから悠矢さんは私の銀行口座にお金を振り込んだ、と言った。決して少なくない額だ。
「そんな。お金なんて」
私の生活費は十分、誠さんが世話してくれてるのに。
「いや。こういう事くらいさせてください。けじめというか。俺の感謝をどう伝えたらいいかな、って考えてこうなりました。どうか受け取ってください」
私はどうすればいいかわからず誠さんを見上げた。
「受け取っていいと思うよ。芙美さんはがんばってた。それに見合う報酬だよ」
そうだろうか......。悠矢さんのせっかくのご厚意を無下にすることもできず、いただく方向で落ち着いた。
「芙美先生、おじさん、バイバイ」
小さな手を振りながら、ゆうきくんとお別れした。
この二か月ずっと一緒だったゆうきくんとこれでお別れなんて実感がわかない。こうなると心の準備をしてきたつもりだったけど、明日また「ただいま」と帰ってくるんじゃないかって思ってしまう。
ゆうきくんがいなくなったリビングで私と誠さんは差し向かいで夕食をとった。いつものように私の作った料理を美味しいと言ってくれてありがたい。
私は野菜スーププラス魚の日だったので、焼き鮭を食べていた。普段ならお魚の美味しさに頬をほころばせているところなのだが、そうもいかない。明後日から誠さんはシンガポール出張。それが終わったらいよいよ私の身の振り方が決まる。
早く知ってしまいたいような、もっと引き延ばせたらいいのに、という気持ちがせめぎ合う。
「芙美さん、明日の日曜日、何か予定はある?」
誠さんが食べるのを一旦やめて私に言う。
「え?明日は特に、何もないです」
この二か月、休日はゆうきくん中心だったので、自分の予定を入れる、ということを忘れていた。
「じゃあ、俺とデートして。明日はシンガポール行きの前日で仕事を入れてないんだ」
「デート?」
思わず目を見張ってしまう。思いがけないお誘いだ。
「そう。ゆうきの世話お疲れ様会っていうのかな。君を労いたいんだよ」
「は、はあ......」
「じゃ、決まりだな。十時には部屋を出るから準備しておいて」
そう言って食事を終わらせて、誠さんは入浴しに行ってしまった。
取り残された私は、ぼんやりしてしまったが、なに着てけばいいんだろう?と慌てて考え出した。
翌日、誠さんが午前中に連れて行ってくれたのはデパートだった。迷わない足取りで誠さんが歩いて行くのでついていく。
え、婦人服売り場?
「芙美さん、俺が買ってやった服、もう大きいだろう。サイズダウンしたのを買わないとな」
私は誠さんが以前ブティックで買ってくれた水色のワンピースをベルトをして着ていた。そうなのだ、実は五キロ痩せたので微妙にゆるいのだ。誠さんはそんなことまで抜け目ないんだなあ、と感心する。
「これがいいな。似合うと思う」
ベージュに黒の小さな水玉模様の優しい感じのワンピース。
で、でも私の身体で入るだろうか?!
不安な表情をしていると女性の店員さんから試着室へ案内された。
おそるおそる着てみると......パツパツじゃない。着れてる。
「着、着れました」
思わず試着室から出て誠さんに言ってしまった。嬉しい。もうマネキンに着せられてる服を選べるんだ。
「そうだろう。俺の見立て通りだ。うん、やっぱりよく似合ってる。タグを切ってもらって。それでデートしよう」
「あ、ありがとうございます」
気に入った服で誠さんとデートできるなんて最高だ。
「こうでもしないと芙美さんは新しい服を買わないから」
「だって誠さんが買ってくださったお洋服って素敵なのばかりで、とても無下にできません」
芙美さんらしい、と誠さんは笑ってランチに行こう遅れる、と私の手を取った。
どきん、と心が揺れる。手をつなぐの、初めてだ。
お昼はアンティークの家具が素敵なカフェで二人でガレットを食べた。