ぽっちゃりでもいいですか ~私と御曹司のダイエット日記~
「そうかな。私、そんなにモテないけどなあ。実は今度、合コンがあってね。ひとりメンバーが足りなくて......芙美ちゃん、行かない?恰好いい人が来るかもよ」
私は目を丸くした。そんなお誘いは生まれて初めてだった。
「私が行ったら、男の人はひいちゃうんじゃないかなあ。やめておくよ」
私はそうよね、と竹本さんが言ってくれると思って気楽にそう言った。
ところが。
「そんなことないよ。えっと、芙美ちゃんさっきから体型とか気にしてるみたいだけど……これ、見てよ」
そう言って、竹本さんはスマホを操作し、一枚の写真を見せてくれた。
見るとそこにはウェディングドレスを着た女性がタキシード姿の男性と並んでいる写真だった。結婚式でのものだとはすぐわかる。問題は......そのウェディングドレスを着ている花嫁さんが、私くらい......もしくは私以上に大きな体の女性、ということだ。その女性は満面の笑顔で映っている。ものすごく幸せそうだ。
「ね、こんな大きな人だって結婚できるんだよ。これ、私の高校時代の友だちなんだけどね、彼女、結構、モテるんだ。気さくっていうか、どんどん男子にも話しかけて男友達作っちゃえるの。いい意味で自分に自信があるのね」
「はあ......」
私は感嘆のため息をもらした。私は今の実家暮らしの生活をどう無難にすごしていくかに気をとられていて、とても恋愛にまで気が回らない。
それにしても竹本さんのお友達の大き目の女性のような自信はどうしたら身につくんだろう。男性に気さくに接するなんて、私には遠すぎて想像もつかない......。
そこまで考えて、この間のレストランでビーフシチューを隣り合って食べた社長の篠崎さんのことを思い出した。
たしかに男性慣れしていない私にしてはよくしゃべったと思う。ただ......あれは、篠崎さんがとても落ち着いていて、喋りやすい雰囲気を作ってくれていたからだ。合コンみたいな皆でわいわいやる場で私はどんな振舞いをすればいいんだろう。話題だって、着ていく服だって、何もかもわからない。
「竹本さんのお友達って素敵ね。そんなに自信があるなんて憧れる。でも私はそういうのに慣れてないから、合コンもちょっと無理みたい......」
せっかく誘ってくれた竹本さんの気を悪くさせないようにそっと言ったつもりだ。
「そう?芙美ちゃん、笑顔がとっても素敵なのに。この写真の子みたいにモテなくてもいいから、ちょっと男性と知り合うくらい、いいんじゃないかなって思うんだけど」
竹本さんが心から親切心で言ってくれているのがわかる。
でも私の想像の中の自分は、合コンしている皆さんの中でお地蔵さんのように固まってなにもできないでいる。とにかくずっとうつむいて飲み物をすすってる、そんな風になるだろう。
「どう考えても、向いてないみたい。誘ってもらったのにごめんね」
「うーん。もったいないなあ。芙美ちゃん、ズバリ彼氏ほしくないの?」
「えっ」
彼氏......。甘い響きの言葉だなあ。それは私だって、そんな人がいたらいいのに、と思うことはある。恋愛小説みたいに男性に思われてみたいとか......でも、思うだけで、実感としてはとても遠いものなのだ。
「いいなあとは思うけど......なんかあんまり前向きになれないっていうか......」
歯切れの悪い返事をする私に、竹本さんは私を見つめて言った。
「実は本当のところ、合コンっていうかダブルデートで......私、好きな人から四人でご飯食べない、って誘われたの」
竹本さんは思いつめた声を出した。
あ、そうか。好きな人とデートしたかったんだ。
「その人のこと、ずっと好きなの?」
竹本さんはこくりと頷いた。なんだか小さな女の子になってしまったような純粋なものを感じた。
「そうなんだ......」
「食事に誘われたのは初めてなの。友だちも呼んでご飯でもいかない、って言ってくれて」
聞くところによると高校時代のクラスメートなのだそうだ。当時から好きだったけれど告白できずに卒業して。先月、ばったり偶然街で会って久しぶりだし飲みにでも行こうという流れになったという。
「それは...すっごいチャンスだね」
「うん。逃したくないんだ」
そうか、ずっと好きだった人に誘われたんだ。それは行きたいだろうなあ。うーん。
「あの、その人ともうひとり男性で、二対二で会うってことだよね」
竹本さんは頷いた。
「私もっと男女がいっぱいる合コン想像してたから苦手だと思ったけど、四人だったら何とかなりそう」
「え!本当?芙美ちゃん、無理してない?」
「うん。ちょっと飲むくらいなら、大丈夫だと思う」
いつも親切にしてくれる竹本さんのためになるなら、と私は自分の背中をどついた。
私も二十六歳なんだもの。こういうことだってちゃんと経験してみなきゃ。
と、なると......。
合コンは三日後との事だった。竹本さんの好きな人は商社マンで、同僚の人と来るらしい。
「どんな恰好していけばいいのかなあ」
こういうダブルデートだなんて生まれて初めてなので、何もわからないのが正直なとっころだ。
「そんなに気合入れる必要はないと思うけど……やっぱり小ぎれいにはしてた方がいいよ。わたし新しいワンピースを買うつもり」
そっか。それはそうだよね。好きな人と初めての食事だもの。服を新調したくなる気持ちはわかる気がする。
「芙美ちゃんも一緒に買わない?」
「ありがとう。でも、ちょっとクローゼットと相談してみるね」
ワンピースを買ってしまうとコツコツ貯めたわずかお給料が飛んでいってしまう。
「そう?芙美ちゃん、でもありがとう。行く気になってくれて。ね、何か甘いもの食べたら?おごるよ」
「いいよ、いいよ。でもどんな話をすればいいかは教えてほしいな」
今日みたいにカフェに寄ったとき、私は飲み物しか頼まない。家へ帰ったらまた義母ご義妹からの「食べろ食べろ」攻撃が待っているので、甘いものは食べないようにしているわけだ。これ以上太らないよう努力はしてるつもり。
そんな感じで竹本さんとのダブルデート談義をして、今日はお開きになった。
うーん…。私はクローゼットから服を出して広げてみた。どれも体型をカバーするためにだぼっとした印象の服が多い。
「よそいき風な服は……やっぱり、ないか」
探せば何か出てくるかも、と思ったがそう甘くはなかった。実は今見ている大き目の服たちは十年前に父から買ってもらったものだ。
短大に入学した頃、父は半年くらい仕事で家をあけたことがある。父がいないのをいいことに、義母と義妹は「食べろ食べろ」攻撃を徹底してやり、私は随分太ってしまった。着ていた服がぱつぱつになり、やっとボタンがかけられるかどうか。
そんな私を見て義母も美晴もくすくす笑うばかり。サイズアップした服は買ってもらえなかった。少し大き目だった服二、三枚を繰り返し着ることになった。
父が半年ぶりに家に帰ってくると、さすがに私が太っていることやサイズの合わない服を着ていることに気づいたようだ。
私は目を丸くした。そんなお誘いは生まれて初めてだった。
「私が行ったら、男の人はひいちゃうんじゃないかなあ。やめておくよ」
私はそうよね、と竹本さんが言ってくれると思って気楽にそう言った。
ところが。
「そんなことないよ。えっと、芙美ちゃんさっきから体型とか気にしてるみたいだけど……これ、見てよ」
そう言って、竹本さんはスマホを操作し、一枚の写真を見せてくれた。
見るとそこにはウェディングドレスを着た女性がタキシード姿の男性と並んでいる写真だった。結婚式でのものだとはすぐわかる。問題は......そのウェディングドレスを着ている花嫁さんが、私くらい......もしくは私以上に大きな体の女性、ということだ。その女性は満面の笑顔で映っている。ものすごく幸せそうだ。
「ね、こんな大きな人だって結婚できるんだよ。これ、私の高校時代の友だちなんだけどね、彼女、結構、モテるんだ。気さくっていうか、どんどん男子にも話しかけて男友達作っちゃえるの。いい意味で自分に自信があるのね」
「はあ......」
私は感嘆のため息をもらした。私は今の実家暮らしの生活をどう無難にすごしていくかに気をとられていて、とても恋愛にまで気が回らない。
それにしても竹本さんのお友達の大き目の女性のような自信はどうしたら身につくんだろう。男性に気さくに接するなんて、私には遠すぎて想像もつかない......。
そこまで考えて、この間のレストランでビーフシチューを隣り合って食べた社長の篠崎さんのことを思い出した。
たしかに男性慣れしていない私にしてはよくしゃべったと思う。ただ......あれは、篠崎さんがとても落ち着いていて、喋りやすい雰囲気を作ってくれていたからだ。合コンみたいな皆でわいわいやる場で私はどんな振舞いをすればいいんだろう。話題だって、着ていく服だって、何もかもわからない。
「竹本さんのお友達って素敵ね。そんなに自信があるなんて憧れる。でも私はそういうのに慣れてないから、合コンもちょっと無理みたい......」
せっかく誘ってくれた竹本さんの気を悪くさせないようにそっと言ったつもりだ。
「そう?芙美ちゃん、笑顔がとっても素敵なのに。この写真の子みたいにモテなくてもいいから、ちょっと男性と知り合うくらい、いいんじゃないかなって思うんだけど」
竹本さんが心から親切心で言ってくれているのがわかる。
でも私の想像の中の自分は、合コンしている皆さんの中でお地蔵さんのように固まってなにもできないでいる。とにかくずっとうつむいて飲み物をすすってる、そんな風になるだろう。
「どう考えても、向いてないみたい。誘ってもらったのにごめんね」
「うーん。もったいないなあ。芙美ちゃん、ズバリ彼氏ほしくないの?」
「えっ」
彼氏......。甘い響きの言葉だなあ。それは私だって、そんな人がいたらいいのに、と思うことはある。恋愛小説みたいに男性に思われてみたいとか......でも、思うだけで、実感としてはとても遠いものなのだ。
「いいなあとは思うけど......なんかあんまり前向きになれないっていうか......」
歯切れの悪い返事をする私に、竹本さんは私を見つめて言った。
「実は本当のところ、合コンっていうかダブルデートで......私、好きな人から四人でご飯食べない、って誘われたの」
竹本さんは思いつめた声を出した。
あ、そうか。好きな人とデートしたかったんだ。
「その人のこと、ずっと好きなの?」
竹本さんはこくりと頷いた。なんだか小さな女の子になってしまったような純粋なものを感じた。
「そうなんだ......」
「食事に誘われたのは初めてなの。友だちも呼んでご飯でもいかない、って言ってくれて」
聞くところによると高校時代のクラスメートなのだそうだ。当時から好きだったけれど告白できずに卒業して。先月、ばったり偶然街で会って久しぶりだし飲みにでも行こうという流れになったという。
「それは...すっごいチャンスだね」
「うん。逃したくないんだ」
そうか、ずっと好きだった人に誘われたんだ。それは行きたいだろうなあ。うーん。
「あの、その人ともうひとり男性で、二対二で会うってことだよね」
竹本さんは頷いた。
「私もっと男女がいっぱいる合コン想像してたから苦手だと思ったけど、四人だったら何とかなりそう」
「え!本当?芙美ちゃん、無理してない?」
「うん。ちょっと飲むくらいなら、大丈夫だと思う」
いつも親切にしてくれる竹本さんのためになるなら、と私は自分の背中をどついた。
私も二十六歳なんだもの。こういうことだってちゃんと経験してみなきゃ。
と、なると......。
合コンは三日後との事だった。竹本さんの好きな人は商社マンで、同僚の人と来るらしい。
「どんな恰好していけばいいのかなあ」
こういうダブルデートだなんて生まれて初めてなので、何もわからないのが正直なとっころだ。
「そんなに気合入れる必要はないと思うけど……やっぱり小ぎれいにはしてた方がいいよ。わたし新しいワンピースを買うつもり」
そっか。それはそうだよね。好きな人と初めての食事だもの。服を新調したくなる気持ちはわかる気がする。
「芙美ちゃんも一緒に買わない?」
「ありがとう。でも、ちょっとクローゼットと相談してみるね」
ワンピースを買ってしまうとコツコツ貯めたわずかお給料が飛んでいってしまう。
「そう?芙美ちゃん、でもありがとう。行く気になってくれて。ね、何か甘いもの食べたら?おごるよ」
「いいよ、いいよ。でもどんな話をすればいいかは教えてほしいな」
今日みたいにカフェに寄ったとき、私は飲み物しか頼まない。家へ帰ったらまた義母ご義妹からの「食べろ食べろ」攻撃が待っているので、甘いものは食べないようにしているわけだ。これ以上太らないよう努力はしてるつもり。
そんな感じで竹本さんとのダブルデート談義をして、今日はお開きになった。
うーん…。私はクローゼットから服を出して広げてみた。どれも体型をカバーするためにだぼっとした印象の服が多い。
「よそいき風な服は……やっぱり、ないか」
探せば何か出てくるかも、と思ったがそう甘くはなかった。実は今見ている大き目の服たちは十年前に父から買ってもらったものだ。
短大に入学した頃、父は半年くらい仕事で家をあけたことがある。父がいないのをいいことに、義母と義妹は「食べろ食べろ」攻撃を徹底してやり、私は随分太ってしまった。着ていた服がぱつぱつになり、やっとボタンがかけられるかどうか。
そんな私を見て義母も美晴もくすくす笑うばかり。サイズアップした服は買ってもらえなかった。少し大き目だった服二、三枚を繰り返し着ることになった。
父が半年ぶりに家に帰ってくると、さすがに私が太っていることやサイズの合わない服を着ていることに気づいたようだ。