ぽっちゃりでもいいですか ~私と御曹司のダイエット日記~
「だって、芙美ちゃんたら、服を買ってあげるっていうのに遠慮するんだもの。やっぱり継母の選んだ服は着たくないんじゃない」
父の前で堂々と義母は言った。買ってあげるなんてひと言も言ったことないくせに。
「昔から芙美は遠慮しい、だったもんな。明日、父さんと一緒に服を買いに行こうか」
そんなことを言われるとは予想外だった。父なりに継母と私の関係を気遣ってくれたらしかった。
父は翌日、私をデパートの「大きいサイズの店」に連れて行ってくれた。その時に買ってくれたものが仕立てがよく、私はずっとその服を愛用している。その服たちを着るためにも今の体型を維持しようとはしている。義母や美晴の「たべろ攻撃」がない場合は粗食に徹している。義母や美晴が出かけている、たまにしかできないけれど。
私はあっさりしたデザインの黒を基調としたワンピースを手にした。飾り気のない地味な服だ。
「これをちょっといじってみようかな…」
私のクローゼットの手前には大きな袋につっこまれた十数枚の服がある。美晴が
「これあげる。どうせ着られないでしょうけど」
美晴が義母とショッピングを楽しみ、たくさんの服を買う。なので着なくなった服は私に処分させようとするのだ。美晴の言うとおり、着れる服は一枚もない。ちょっとした嫌がらせだ。
でも……その嫌がらせも、今日はちょっと役に立ちそう…。
私は袋の中に詰め込まれた服をチェックしてみた。レースや凝った飾りがついたものがいくつかある。
これをこのシンプルな黒に飾ってみたらどうだろう。
実は私はお裁縫や編み物が大好きなのだ。今までも父に買ってもらった服を改良してポケットや飾りボタンをつけたりして違う印象の服にしたことがある。
そんなのを美晴が目ざとくみつけて
「うあー貧乏くさい。私にはそんな真似できないわあ」
などと言うのだった。そうかな、貧乏くさいかな、となどと少し気迷いながらどんぐり幼稚園に着ていったことがある。
すると幼稚園のほかの保育士たちから
「あれ、今日の服かわいいね」「え、自分でリメイクしたの?すごーい」
などと褒めてもらえたのだった。
そっか...。美晴や義母がなにか言っても、真に受けちゃダメなんだ。
彼女たちの暴言に私が落ち込んでぱっとしたことがなにもできなくなればいい、と思っているのだ。
私は彼女たちからの暴言を交わしていこう、と決めた。
そして今夜はシンプルな黒のワンピースを「よそいきに見られるように」飾りをつけるのが目標だ。ダブルデートは三日後。
私は裁縫道具を取り出し、服の改造を始めた。
三日後。
今日はダブルデートの日だ。私はなんとかできあがった黒のワンピースを着て仕事の帰りに洒落たイタリアンレストランに来ていた。
自分ひとりだけで入るのはちょっと勇気がいる感じの店だ。でも席に案内されると先に来ていた竹本さんがいた。
「わ、芙美ちゃん、今日のワンピース素敵ね。そんなの初めて見た。どこで買ったの?」
この三日がんばって夜なべした甲斐があった。襟元にはレースのつけ襟をして、裾は少しスリットを入れてそこにオーガンジーを当てた。ちょっとした透け感で大人っぽくするのが狙いだったけれど、自分が思っているよりもうまくいったみたいだ。今朝、美晴はワンピースの改造にめざとく気づき、
「うわ、変な服。それ着てどっか行くわけ?ないわー」
などと言っていたが聞き流していた。
竹本さんは優しいからちょっとしたことでも大きく言ってくれているのかもしれないけど、やっぱり高評価はうれしいものだ。常に義母たちから『ダサい』『ひどい』『よくそんな恰好で歩けるわね』などとしか言われないので、気持ちがやわらかくほっこりする。
その後、竹本さんの意中の人、田島さんとその同僚の三国さんがやってきた。男女四人が揃うと結構わいわいと話しが弾む。特に男性陣はこういう場に慣れているのか、小さな声でどんどん冗談を言うので私も竹本さんも笑いっぱなしだった。
私は初ダブルデートで緊張していて、最初ぎこちなくしか笑えなかったけど、次第に落ち着いてきた。
年の近い男性と喋るなんて中学以来だ。そうだ、私だって気さくに男子と話してた頃があったんだ……そんなことを思ったりした。
美味しいお料理が続き、自然な流れでどういう食生活をしているのか、という話しになる。竹本さんが言った。
「私は自炊派かな。コンビニ使ってたら経済的に困窮しちゃうから。お弁当には夕ご飯の残りものを詰めてるの。だからこんな飲み会でもない限り家でなにか作って食べてる」
「料理できるんだ、すごいね」
竹本さんの意中の人、田島さんはストレートに竹本さんを褒めた。田島さんは白いシャツの似合う清潔感のある人だった。顔もしゅっとしていて恰好いい。これまでの話題も肯定的で聞き心地がよかった。
「そうだね。やっぱり女性が料理を作ってる、って素敵だよね」
三国さんが言う。ちょっと目つきが暗い人で冗談を言っても、冗談に聞こえない、みたいな……なんというか少し残念な人だ。私の向いに座っているので私にも話しかけてくれるのだが、もうひとつ話題がかみ合わず私は「はあ」とか「そうですね」と相づちを打つので精一杯だった。
「町田さんは料理するわけ?結構作りすぎていたりして」
これは多分私がぽっちゃりなのを踏まえて言ってるんだろうな。
腹は立たないけど、今後は会いたくないタイプだ。田島さんと竹本さんがすんなり交際できるといいのに。
「そうですね。自分ではそんなに……家政婦さんが料理してるのを手伝ったりはしてますけど」
「家政婦さん?何、君、お嬢様なわけ?」
三国さんが随分驚いた声を出す。
「そんなふうに全然見えない」
「芙美ちゃんのお父様は町田不動産グループの社長さんよ。れっきとしたお嬢様よ」
あ。それ言わないでおこうと思ったんだけどな。家政婦さんの事なんか言わなきゃよかった。
「へえー。じゃあ、その家政婦さんの作る凝った料理とか食べてんだ?ねえ、総カロリーは把握してる?美味しいものが出てくるって羨ましいけど体重コントロールができないってちょっと女子として終わってるよね。そういう人が子どもを指導するってどうなの」
食べていたものがぐっと喉につかえる。
女子として終わってるよね。そういう人が子供を……
……家にいても外にいても、私はやはりディスられる。私の体型はそんなに罪作りなものなんだろうか。小さないいことをかきあつめて、なんとか笑えるように、感じよく振舞えるように心砕きながら幼稚園での仕事に精を出していた。
そういった努力をぐしゃっとつぶされた気がした。
「食育って大事でしょ。子どもたちに見本の食生活見せなきゃいけないんじゃないの?園児たちに『先生みたいに食べられません』とか言われるんじゃない。うけるわー」
三国さんの「うけるわー」の方がこの場には浮いていた。竹本さんも田島さんも冷ややかな視線を三国さんに送っている。
「第一、どうしたらそんなに太れるわけ?あ、こういう場では小食のフリするんよね、女子って。んで帰ったらお菓子とかバリバリ食うんでしょ。全然園児の模範になってないじゃーん。保育士としても終わってるねー」
父の前で堂々と義母は言った。買ってあげるなんてひと言も言ったことないくせに。
「昔から芙美は遠慮しい、だったもんな。明日、父さんと一緒に服を買いに行こうか」
そんなことを言われるとは予想外だった。父なりに継母と私の関係を気遣ってくれたらしかった。
父は翌日、私をデパートの「大きいサイズの店」に連れて行ってくれた。その時に買ってくれたものが仕立てがよく、私はずっとその服を愛用している。その服たちを着るためにも今の体型を維持しようとはしている。義母や美晴の「たべろ攻撃」がない場合は粗食に徹している。義母や美晴が出かけている、たまにしかできないけれど。
私はあっさりしたデザインの黒を基調としたワンピースを手にした。飾り気のない地味な服だ。
「これをちょっといじってみようかな…」
私のクローゼットの手前には大きな袋につっこまれた十数枚の服がある。美晴が
「これあげる。どうせ着られないでしょうけど」
美晴が義母とショッピングを楽しみ、たくさんの服を買う。なので着なくなった服は私に処分させようとするのだ。美晴の言うとおり、着れる服は一枚もない。ちょっとした嫌がらせだ。
でも……その嫌がらせも、今日はちょっと役に立ちそう…。
私は袋の中に詰め込まれた服をチェックしてみた。レースや凝った飾りがついたものがいくつかある。
これをこのシンプルな黒に飾ってみたらどうだろう。
実は私はお裁縫や編み物が大好きなのだ。今までも父に買ってもらった服を改良してポケットや飾りボタンをつけたりして違う印象の服にしたことがある。
そんなのを美晴が目ざとくみつけて
「うあー貧乏くさい。私にはそんな真似できないわあ」
などと言うのだった。そうかな、貧乏くさいかな、となどと少し気迷いながらどんぐり幼稚園に着ていったことがある。
すると幼稚園のほかの保育士たちから
「あれ、今日の服かわいいね」「え、自分でリメイクしたの?すごーい」
などと褒めてもらえたのだった。
そっか...。美晴や義母がなにか言っても、真に受けちゃダメなんだ。
彼女たちの暴言に私が落ち込んでぱっとしたことがなにもできなくなればいい、と思っているのだ。
私は彼女たちからの暴言を交わしていこう、と決めた。
そして今夜はシンプルな黒のワンピースを「よそいきに見られるように」飾りをつけるのが目標だ。ダブルデートは三日後。
私は裁縫道具を取り出し、服の改造を始めた。
三日後。
今日はダブルデートの日だ。私はなんとかできあがった黒のワンピースを着て仕事の帰りに洒落たイタリアンレストランに来ていた。
自分ひとりだけで入るのはちょっと勇気がいる感じの店だ。でも席に案内されると先に来ていた竹本さんがいた。
「わ、芙美ちゃん、今日のワンピース素敵ね。そんなの初めて見た。どこで買ったの?」
この三日がんばって夜なべした甲斐があった。襟元にはレースのつけ襟をして、裾は少しスリットを入れてそこにオーガンジーを当てた。ちょっとした透け感で大人っぽくするのが狙いだったけれど、自分が思っているよりもうまくいったみたいだ。今朝、美晴はワンピースの改造にめざとく気づき、
「うわ、変な服。それ着てどっか行くわけ?ないわー」
などと言っていたが聞き流していた。
竹本さんは優しいからちょっとしたことでも大きく言ってくれているのかもしれないけど、やっぱり高評価はうれしいものだ。常に義母たちから『ダサい』『ひどい』『よくそんな恰好で歩けるわね』などとしか言われないので、気持ちがやわらかくほっこりする。
その後、竹本さんの意中の人、田島さんとその同僚の三国さんがやってきた。男女四人が揃うと結構わいわいと話しが弾む。特に男性陣はこういう場に慣れているのか、小さな声でどんどん冗談を言うので私も竹本さんも笑いっぱなしだった。
私は初ダブルデートで緊張していて、最初ぎこちなくしか笑えなかったけど、次第に落ち着いてきた。
年の近い男性と喋るなんて中学以来だ。そうだ、私だって気さくに男子と話してた頃があったんだ……そんなことを思ったりした。
美味しいお料理が続き、自然な流れでどういう食生活をしているのか、という話しになる。竹本さんが言った。
「私は自炊派かな。コンビニ使ってたら経済的に困窮しちゃうから。お弁当には夕ご飯の残りものを詰めてるの。だからこんな飲み会でもない限り家でなにか作って食べてる」
「料理できるんだ、すごいね」
竹本さんの意中の人、田島さんはストレートに竹本さんを褒めた。田島さんは白いシャツの似合う清潔感のある人だった。顔もしゅっとしていて恰好いい。これまでの話題も肯定的で聞き心地がよかった。
「そうだね。やっぱり女性が料理を作ってる、って素敵だよね」
三国さんが言う。ちょっと目つきが暗い人で冗談を言っても、冗談に聞こえない、みたいな……なんというか少し残念な人だ。私の向いに座っているので私にも話しかけてくれるのだが、もうひとつ話題がかみ合わず私は「はあ」とか「そうですね」と相づちを打つので精一杯だった。
「町田さんは料理するわけ?結構作りすぎていたりして」
これは多分私がぽっちゃりなのを踏まえて言ってるんだろうな。
腹は立たないけど、今後は会いたくないタイプだ。田島さんと竹本さんがすんなり交際できるといいのに。
「そうですね。自分ではそんなに……家政婦さんが料理してるのを手伝ったりはしてますけど」
「家政婦さん?何、君、お嬢様なわけ?」
三国さんが随分驚いた声を出す。
「そんなふうに全然見えない」
「芙美ちゃんのお父様は町田不動産グループの社長さんよ。れっきとしたお嬢様よ」
あ。それ言わないでおこうと思ったんだけどな。家政婦さんの事なんか言わなきゃよかった。
「へえー。じゃあ、その家政婦さんの作る凝った料理とか食べてんだ?ねえ、総カロリーは把握してる?美味しいものが出てくるって羨ましいけど体重コントロールができないってちょっと女子として終わってるよね。そういう人が子どもを指導するってどうなの」
食べていたものがぐっと喉につかえる。
女子として終わってるよね。そういう人が子供を……
……家にいても外にいても、私はやはりディスられる。私の体型はそんなに罪作りなものなんだろうか。小さないいことをかきあつめて、なんとか笑えるように、感じよく振舞えるように心砕きながら幼稚園での仕事に精を出していた。
そういった努力をぐしゃっとつぶされた気がした。
「食育って大事でしょ。子どもたちに見本の食生活見せなきゃいけないんじゃないの?園児たちに『先生みたいに食べられません』とか言われるんじゃない。うけるわー」
三国さんの「うけるわー」の方がこの場には浮いていた。竹本さんも田島さんも冷ややかな視線を三国さんに送っている。
「第一、どうしたらそんなに太れるわけ?あ、こういう場では小食のフリするんよね、女子って。んで帰ったらお菓子とかバリバリ食うんでしょ。全然園児の模範になってないじゃーん。保育士としても終わってるねー」