いえない事情〜初恋のエリート上司がわたしに執着する理由〜

♢

「お疲れさまでしたー!」

「お疲れさまー」


 超繁忙期の戦場を何とか乗り切った、二十時過ぎ。
 
 私と茅野ちゃんはお互いを労いながら乾杯したあと、ビールの中ジョッキをぐびぐびと豪快に半分ほど飲み干した。


「今日は本当に本当に、ありがとうございました!」とこちらが恐縮するくらい感謝の意を示してくれた店長や他のスタッフに見送られた私たちは、お疲れさま会と称して、商業施設近くの焼き鳥屋に来ていた。サラリーマンたちが集うような、炭火焼きの匂いが香ばしい、こじんまりとした赤提灯のお店のカウンター席だ。

 注文していたうずらの卵の醤油漬けととりわさを私たちの前に置きながら、「姉ちゃんたち、いい飲みっぷりだねぇ!」と嬉しそうに笑った大将に、「この一杯のために働いてますから!」と茅野ちゃんがガッツポーズをする。

 私たちは女子が好むようなオシャレなお店もたまに行ったりはするけれど、大体がこういう気取らない、気さくなお店を好んで選ぶことが多い。

 「見た目に反して、二人とも食の好みがオヤジくさい!たまにはオシャレなお店に行きたい!」と、茅野ちゃんとも仲の良い私の同期からは時々クレームが出るほど、私たちがこういうお店を選ぶ率は高い。


「それにしても、今日は光芽さんのシアーシャツとカーブパンツのセットがよく売れましたね!だって、もう抜群にキレイですもん、着てる光芽さんが!」

「そんなに褒めてくれても、大将の美味しい焼き鳥しか出ませんよ〜?」


 茅野ちゃんの大袈裟な褒め言葉に私がおどけてそう返せば、「はい!焼き鳥の前に大将特製の美味しいモツ煮が出るよ〜!焼き鳥はもうちょっと待っててね!」と、ナイスなタイミングで大将がお茶目にモツ煮を提供してくれたものだから、思わず二人で吹き出した。


「モツ煮も出てきたね」

「出てきましたね。って、もう!光芽さんってば、いっつも素直に受け取ってくれない〜」  


 むくれてみせる茅野ちゃんに苦笑を返しつつ、モツ煮のお皿を彼女の方へ寄せる。


「はいはい、ありがとう。久々に店頭に立つから、頑張りました。茅野ちゃんのヘムレースのワンピースも、単価高いけど売れ行きよかったよね。追加発注かけたから、これから夏に向けてまだまだ伸びるよ」


 言いながら、不意に過った過去の記憶。

 
『── 褒められたら、そこは素直に〝ありがとう〟でいいんだよ』

 
 忙しさに紛れてすっかり忘れていたのに、かつて私にそう言った彼のことを今朝ぶりに思い出しそうになって、「ヤメロ、出てくるんじゃないと、その残像をビールと一緒に胃に流しこんでやった。

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