いえない事情〜初恋のエリート上司がわたしに執着する理由〜

「我々のチョイス、なかなかよかったですよね」

「うん。他のスタッフとも、うまいこと被らなかったしね」


 販売員は、ブランドの顔だ。動くマネキンとして自社の服を魅力的に着こなし、お客様に「素敵だな」「真似したいな」と思わせるロールモデルにならなければならない。

 私たちのブランド「la・mila」は、二十代後半から四十代の女性をターゲットにトレンドを取り入れつつも、シルエットや着心地の良さを重視したベーシックなデザインを得意とするブランドだ。

 今日の私たちは、スタイルが被らないように事前に打ち合わせをしていた。

 私と茅野ちゃんは、身長こそ百六十センチちょっとで同じくらいだけど、顔の系統は全然違う。

 ぱっちりとした二重が可愛らしい顔立ちの茅野ちゃんは、フェミニンなヘムレースのワンピーススタイルで、セミロングの髪は、編み込みを施したハーフアップに。

 可愛い系よりはキレイ系、フェミニンよりはクール、と評されがちな猫目気味の顔立ちの私は、カジュアルなアイシーブルーのシアーシャツに、ライトグレーの接触冷感タイプのカーブパンツスタイルで、背中の真ん中まである緩くパーマを掛けた髪は、玉ねぎ風編みおろしポニーに。

 あえて逆を狙っていくこともあるけれど、今回、自身の特徴に合わせてチョイスした私たちのスタイルは、「店員さんの着ている服ってどれですか⁉︎」と聞かれることが多かったので、ロールモデルとしてはまずまずの成果だったと言えるだろう。


「他のスタッフといえば、光芽さん、よく野上さんの体調不良に気がつきましたね。店長含め、私も他のスタッフも全く気づけなかったのに!」


 カウンターの向こうの焼き台で、大将の無骨な手によって数本の串が手際よく返される。じりじりと脂の爆ぜる音が、小気味よいリズムを刻んでいた。立ち上る白い煙が換気扇へ吸い込まれていくのを何となく眺めていると、モツ煮を摘んだ茅野ちゃんが思い出したように言った。


「ああ、うん。自分の体調不良を頑として私に悟らせまいとする、年の離れた弟がいるからかなぁ。小さい頃はわかりやすかったんだけど、成長するごとに巧みになっていくんだよね、隠し方が。だから微妙な表情の変化でわかるようになっちゃって」

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