いえない事情〜初恋のエリート上司がわたしに執着する理由〜
野上さんとは入社二年目のスタッフで、このゴールデンウィーク中はずっとシフトに入ってくれているらしかった。
柔らかい接客が持ち味でお客様との距離感もちょうど良く、買い物の目的を引き出して購入に繋げるのが上手な子だという印象を受けていたのだけれど、そんな彼女が接客の合間に見せた一瞬の表情で、もしかしたらと思っていた。
そしてやがてそれは確信に変わり、彼女に尋ねてみたら案の定だった。すでに二人欠勤して本社から私たちが派遣されて来ている状況で自分まで抜ける事態は避けなければ、と体調不良を隠して頑張ってくれていたのだ。店長に伝えると、彼女はそのまま早退することになったのだった。
店長は店の長として気付けなかったことをとても反省していたけれど、野上さんは上手に隠していたから気付けなくても無理もないと思う。たぶん、私がちょっと特殊なだけなのだ。
「すごいですよね、その特殊能力!私も光芽さんにすぐ体調不良見抜かれちゃうの思い出しましたよ」
ぱくりとモツを食べながらふふ、と笑った茅野ちゃんを私はじとりと見やる。
「茅野ちゃん。見抜かれる前にちゃんと自己申告してね?人間身体が資本なんだから、無理は禁物だよ?」
「はーい。って光芽さん、なんかお母さんみたい」
「……せめてお姉さんにして?」
私もモツ煮に箸を伸ばしながらそうつっこめば、茅野ちゃんが楽しそうに笑うから私も釣られてくすくす笑う。そこへ「お待たせしました!大将の美味しい串盛り合わせだよ〜」とお待ちかねの焼き鳥が届いた。
「そういえば、休み明けからですよね。新しいBMが来るの」
ありがとうございます、と受け取って、お皿を茅野ちゃんの方に寄せる。仕事終わりらしいサラリーマンたちの笑い声やジョッキがぶつかり合う小気味良い音が響く店内で、早速ねぎまにパクリとかぶりついた茅野ちゃんが言った。
「ああ、そうだったね。イギリスからヘッドハンティングされてきた人なんだっけ?茅野ちゃん、他に何か聞いてる?」
「正確にはヘッドハンティングじゃなくて、昨年うちと資本・業務提携を結んだフェル社からうちのリブランディングのために送り込まれた人らしいですよ。しかもなんと!各国でいくつもプロジェクトを成功させてきた超優秀でイケメンの独身男性らしいです!」
「超優秀かぁ。そんな人が、あんな大企業からうちにきてくれるのはありがたいよね」
キラキラと目を輝かせる茅野ちゃんを若いなぁ、可愛いなぁと微笑ましく眺めながら、私もトマトベーコン串にかぶりつく。じゅわ、と溢れ出たトマトの果汁が思ったよりも熱くて、「あつ……っ」と慌ててビールで口の中をクールダウンした。