いえない事情〜初恋のエリート上司がわたしに執着する理由〜
実は、&スタイルが要する様々なブランドの中で、私たち「la・mila」の売上げは緩やかに低迷を続けていた。そのリブランディングのために、資本・業務提携先の世界最大のファッション業界コングロマリットであるイギリスのフェル社からやって来るらしい人物が、このゴールデンウィーク明けにうちのBMに就任することになっているのだ。その人物はどうやら、超優秀でイケメンの独身男性らしい。
「光芽さん。食いつくところ、そこじゃないです。そこは独身でイケメンってところにもっと食いついてきてくださいよ〜!」
私の食いついた部分に不服だったらしい茅野ちゃんが唇を尖らせる。私は笑って肩をすくめた。
「だって、そこは興味ないんだもん」
「もう!光芽さんはブレることなく、ほんとに仕事一筋ですね!そんなところもカッコよくて大好きですけど、でももったいないですよ。もう何年彼氏いないんでしたっけ?」
私を純粋に心配してくれているらしい彼女の質問に、もはや錆びつきつつあるその類の記憶を引っ張り出して辿ってみる。
── あの初恋が無惨に散ったあと、もう二度と恋なんてするもんかと思っていた私だったけれど、結果的に二人の人とお付き合いする機会に恵まれた。
一人目は、大学二年生の時。
一年の時に好意を伝えてくれた同級生の告白を、私は一度はお断りをした。「まだ忘れられない人がいるから、ごめんなさい」と。
一方的にフラれた傷は、一年やそこらじゃ全然かさぶたにはなってくれなかった。先輩との思い出は、忘れようと思ってもことあるごとにふとした日常の景色の中に姿を現しては私を揺さぶるから。
だけどそれでもいいからと、根気強く私のそばにいて気持ちを伝え続けてくれた彼のことを、一年かけて私は好きになれたと思っていた。だから二年に進級した時に、私の方から「よろしくお願いします」とその手を取ったのに。どういうわけか、身体は彼を受け入れてはくれなかった。
身体が、触れられることを拒む。頭が、「違う、この人じゃない」と否定する。
キスまでは大丈夫。だけどそれ以上先に進もうとすると、無理だった。立夏先輩とのことが、どうしてもフラッシュバックしてしまうのだ。彼が私をどんなふうに愛してくれていたか、その触れ方や匂い、表情まで鮮明に。
結局、私の気持ちが動くのを辛抱強く一年待ってくれた彼は、私の身体が開くのを待ってはくれなかった。何度か試みても受け入れられない私に、彼はあっさり別れを告げて去っていった。