いえない事情〜初恋のエリート上司がわたしに執着する理由〜

 二人目は、社会人三年目の時。
 
 当時、la・milaの直営店に新米店長として勤務していた時によく通っていた、喫茶店の店長だった。大学の一件以来一人を貫いていた私の心に、するりと自然に入り込んできた人。
 
 いつもコーヒーの香りを纏っていた八歳年上の彼は、落ち着いていて穏やかで、とても優しい人だった。

 店長になりたての私の悩みに耳を傾けてくれ、業種は違えど同じ店長職、時には先輩店長としてアドバイスもしてくれた。

 お互いに好意を寄せていることにはなんとなく気づいていた。まだ記憶の片隅に先輩はいたけれど、流石にこの頃にはもう、傷はかさぶたになっていた。

 そして、「そろそろ僕の彼女になってくれませんか?」という彼のお茶目な一言からお付き合いは始まった、のだけど。


 ── やっぱり、身体は彼を、受け入れられなかった。


 でも大学の時の彼と違ったことは、彼が、私と身体が繋がれなくても一緒にいたいと言ってくれたことだった。

 全ての事情を知った上で私を受け入れてくれた彼とのプラトニックなお付き合いは、しばらくは順調に続いていた。  

 だけど一年が経つ頃、私は彼が浮気していたことを知る。気持ちが繋がっていれば身体は繋がらなくてもいい。そんなのは、所詮綺麗事。やっぱり無理だった。気持ちだけでは満たしてあげられないものが、どうしてもあるのだ。

 それからすぐに、私の方から別れを切り出して終わった恋だった。

 それが社会人四年目、二十五歳の時。

 それ以来私は恋愛することをあきらめたから、かれこれ彼氏いない歴は三年になる。それが一般的に長いのか短いのかは、わからないけれど。


「── 三年くらいかな。でも、私はもう恋愛はいいかなぁ」

「え〜、それはもったいないですよ!光芽さんが周りに目を向けたら、絶対いい人がいるのに!」

 
 目まぐるしく駆け巡ったわずかな痛みを伴う懐かしい回想を一旦閉じてそう答えれば、茅野ちゃんが心底残念そうな声を出す。


「……いい人かぁ。……それならなおさら、私じゃない人を選んだ方がいいんだよ」


 私がジョッキの中に小さく落としたそれは、周りのざわめきと脂の爆ぜる音にかき消されていく。


 ── そう。いい人ならなおさら、絶対に私じゃない人を選んだ方がいい。

 だって私の身体はもうきっと、どう頑張ってもこの先、誰のことも受け入れられないのだから── 。


 なんて自分の抱えている問題にはそっと蓋をして、「それより茅野ちゃんはさ、」と、私は話の矛先を明るく彼女に向けるのだった。

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