急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る
23
「ミーリアム!いい加減に部屋から出てきなさい!」
ドンドンと激しく扉を叩きながら怒鳴りつけるお姉様の声が聞こえるが、ベッドの中から出ようとはしない。
アイヴァン様一行が遠征に向かってから一週間が経とうとしていた。思いの外、アイヴァン様ロスが酷くて、自分でも引くほどに病んでる自覚がある。
「あ~…鳥はいいなぁ~…空が飛べて……私も飛んでみようなかぁ」
「へッへへ」と死んだ魚のような目で笑う姿はとても他人に見せられたものじゃない。
扉の前では諦めの悪い姉が、未だに私を呼びつけている。
「もう!放っておいて!」
扉目掛けて枕を投げつけると、音を遮るように頭まで布団で覆った。別に部屋から出なくたって死にゃしないんだから構わないで欲しい。
(アイヴァン様がいる訳でもなし…)
自分の殻に閉じ籠ろうと、スゥと目を閉じた。
(…ん?)
ふと、扉の外が騒がしくなってるのに気づき、閉じかけた目を開いた。耳を澄ますと姉が誰かと揉める声が聞こえる。
「なに?」
流石に気になって、のっそりと体を起こした。すると、すぐにドカンッ!と激しい音が部屋全体に響き渡った。
振り返った先には、破壊されたであろう扉と茫然と立ち竦むお姉様の姿があった。その先には目を細めてこちらを見つめるレスターの姿もある。
「な、なななななッ何してんのよ!」
「……」
レスターは狼狽える私の言葉なんて耳に届いていないかのように、ズカズカと部屋に入ってくる。百歩譲って、扉を壊したのは許そう。本来なら駄目だけど、一旦それは不問にする。
けどね、承諾もなく女性の部屋に入ってくるのは駄目だろ。例え幼馴染でも礼儀は忘れちゃいけない。
「レスター!あんたねぇ──!」
「行きますよ」
正道を問うてやろとしたが、その言葉すら遮られた。レスターは私を見下ろしたままで、それ以上の言葉はない。何を考えているのか分からず「は?」と返すが、口を閉じたままベッドから引きずり出されてしまった。
「支度をお願いします」
「あ、はい!」
側にいた侍女に声をかけると、侍女は忙しなく私の身支度を始めた。終始「?」状態の私はされるがまま。
そうして、気が付いた時には外に放り出されていた。
「さあ、行きましょう」
「は?」
***
……なんで私は、ケーキなんぞを食しているのだろう……なんで向かいに座ってるのがレスターなのだろう……
「美味しくないですか?」
視線がうるさかったのか、顔を上げて問いかけてきた。
「いや、美味しいけど…」
「それは良かった」
私の言葉に満足したのか、お茶の入ったカップに口を付けながら呟いた。
(美味くないはずないでしょ)
だって、ここは王家御用達だと噂されるカフェだもの。その人気は凄まじいもので、貴族らの間ではここでお茶をするのが一種のステータスとなっている。ま、そのお値段も一流お値段。しがない伯爵令嬢の私は、メニュー表を見ただけで胃が締め付けられる。
それなのに、この男ときたら……
「これとこれ、あとコレもお願いします」
値段なんて気にせず手当たり次第に注文しやがった。目の間に並べられたケーキは宝石みたいで、悔しいけど目が輝いちまったよ。
(ケーキ達に罪はないからね)
そう思う事で罪悪感なくフォークを突き刺しているのだが……
「ねぇ、一体どういうつもり?」
「何がです?」
「とぼけないでよ。今、この状況についてよ」
「あぁ」
不機嫌顔で詰め寄ると、顎に手を当ててなにやら考え込む仕草を見せつけてくる。ここまで来ておいてその態度はなんだ?と腹の底から怒りが湧いてくるが、ジッと我慢。
「…そうですね。敢えて言うなら、このチャンスを利用しない手はないかと思ったまでです」
「は?どういう意味?」
「貴女は知らなくてもいいですよ」
「はぁぁ!?」
そんなの答えになっていないが、コイツに正論を説いても論破されるだけだし……悔しいけど言い返せず睨みつけるのが精一杯。
「折角こうして街へ出てきたんですから、余計なことは考えず楽しめばいいんですよ」
目を伏せ、唇をほこばせて見せた。
(……もしかして、この人も心配してくれた?)
そう言えば、幼い頃から私が落ち込んでいる時はレスターが必ずやって来て、ご機嫌を取ろうとあれやこれやと世話を焼いてくれたっけ……
「ふふっ」
昔を思い出したらつい笑みがこぼれてしまった。
「どうしました?」
「ん?貴方は残念な性格してるなぁって」
「何ですかそれは…褒めてるんですか?」
何故か顔を赤らめて恥ずかしそうに目を逸らしたレスターに「ぷッ…あはははは!」と噴き出してしまった。
「その反応は反則!ズルすぎる!」
腹を抱えて笑う私をレスターは怒ることもせず、黙って見つめていた。
「……良かった……」
「なんか言った?」
あまりにも小さな声だったので聞き取れなかった。
「いいえ。なんでもありませんよ。それより、そろそろ出ましょう。ずっとここに居座る訳にも行きませんからね。この後も私がエスコートしても?」
正直腑に落ちないところもあるが、相手がレスターじゃ仕方ないと思う事にした。それに、腹を抱えて笑ったのも久しぶりだし、気落ちしていた気持ちが和らいだのも事実。
(仕方ない。少しだけ付き合ってやるか)
差し出された手を取り、店を後にした。
エスコートするなんて洒落た言い方されたので身構えてしまったが、なんのことはない。街を一緒に歩き、どちらかが気になった店があれば足を止めて入る。その繰り返しだった。
レスターと一緒で会話が続くか不安だったが、他愛のない話やくだらない話で盛り上がり、話が途切れることがなかった。レスターも表情が読み取れるぐらいには会話を楽しんでいるようで、なんか幼い頃に戻ったみたいで楽しかった。
「あぁ~楽しかった!」
「それは良かったです」
連れ出された当初はここまで楽しむつもりはなかったのに、全力で楽しんでしまった。レスターの両手には私の買った荷物で一杯。懐は寂しくなってしまったが、気持ちは晴れ晴れとしてる。
そんな私とは対照的にレスターは浮かない顔をしている。
「……本当に良かったんですか?今からでも私が贈ることができますよ?」
私の懐事情を知っているレスターは、自分が払うと言って聞かず、会計時に若干揉めた。現に今もこうして使った分を払おうとしてくる。
「いいんだって。そこまでしてもらう義理はないもの。自分の物は自分で買わないと憂さ晴らしにならないでしょう?」
それに、他の男から贈られたものを身につけてるなんてアイヴァン様に知られた時の方がよっぽど苦痛。
「レスター、今日はありがとう!楽しかったわ!」
「いいえ。これくらいは──……あれ?ちょっとミーリいいですか?」
「ん?」
急に立ち止まり、私の顔を覗き込むようにジッと見つめてくる。
「な、なに?」
「ゴミが付いてますね。ちょっとすみません、目を瞑ってくれますか?」
「あ、あぁ、ゴミ!ゴミね!」
(ビックリしたぁ!)
急に真面目な顔で迫ってくるんだもん。いくら見知った顔でも鼻が当たる距離に顔が来ればドキッとだってする。
相手がレスターという事もあり、なんの不信感も持たず言われるがままに目を閉じた。
──この時、私は気付けていなかった。
立ち止まった所が表通りから少し入った路地ということもあり、表通りから見えるのは私の背後だけ。そんな角度でレスターが顔を近づけていたら……
そんな現場をあろうことか、巡回中の騎士に見られていたとしたら……
口を開けて茫然とする騎士。食い入るように凝視している騎士にレスターは、挑発するかのように私の頭に手を回し、目を細めて微笑んだ。
ドンドンと激しく扉を叩きながら怒鳴りつけるお姉様の声が聞こえるが、ベッドの中から出ようとはしない。
アイヴァン様一行が遠征に向かってから一週間が経とうとしていた。思いの外、アイヴァン様ロスが酷くて、自分でも引くほどに病んでる自覚がある。
「あ~…鳥はいいなぁ~…空が飛べて……私も飛んでみようなかぁ」
「へッへへ」と死んだ魚のような目で笑う姿はとても他人に見せられたものじゃない。
扉の前では諦めの悪い姉が、未だに私を呼びつけている。
「もう!放っておいて!」
扉目掛けて枕を投げつけると、音を遮るように頭まで布団で覆った。別に部屋から出なくたって死にゃしないんだから構わないで欲しい。
(アイヴァン様がいる訳でもなし…)
自分の殻に閉じ籠ろうと、スゥと目を閉じた。
(…ん?)
ふと、扉の外が騒がしくなってるのに気づき、閉じかけた目を開いた。耳を澄ますと姉が誰かと揉める声が聞こえる。
「なに?」
流石に気になって、のっそりと体を起こした。すると、すぐにドカンッ!と激しい音が部屋全体に響き渡った。
振り返った先には、破壊されたであろう扉と茫然と立ち竦むお姉様の姿があった。その先には目を細めてこちらを見つめるレスターの姿もある。
「な、なななななッ何してんのよ!」
「……」
レスターは狼狽える私の言葉なんて耳に届いていないかのように、ズカズカと部屋に入ってくる。百歩譲って、扉を壊したのは許そう。本来なら駄目だけど、一旦それは不問にする。
けどね、承諾もなく女性の部屋に入ってくるのは駄目だろ。例え幼馴染でも礼儀は忘れちゃいけない。
「レスター!あんたねぇ──!」
「行きますよ」
正道を問うてやろとしたが、その言葉すら遮られた。レスターは私を見下ろしたままで、それ以上の言葉はない。何を考えているのか分からず「は?」と返すが、口を閉じたままベッドから引きずり出されてしまった。
「支度をお願いします」
「あ、はい!」
側にいた侍女に声をかけると、侍女は忙しなく私の身支度を始めた。終始「?」状態の私はされるがまま。
そうして、気が付いた時には外に放り出されていた。
「さあ、行きましょう」
「は?」
***
……なんで私は、ケーキなんぞを食しているのだろう……なんで向かいに座ってるのがレスターなのだろう……
「美味しくないですか?」
視線がうるさかったのか、顔を上げて問いかけてきた。
「いや、美味しいけど…」
「それは良かった」
私の言葉に満足したのか、お茶の入ったカップに口を付けながら呟いた。
(美味くないはずないでしょ)
だって、ここは王家御用達だと噂されるカフェだもの。その人気は凄まじいもので、貴族らの間ではここでお茶をするのが一種のステータスとなっている。ま、そのお値段も一流お値段。しがない伯爵令嬢の私は、メニュー表を見ただけで胃が締め付けられる。
それなのに、この男ときたら……
「これとこれ、あとコレもお願いします」
値段なんて気にせず手当たり次第に注文しやがった。目の間に並べられたケーキは宝石みたいで、悔しいけど目が輝いちまったよ。
(ケーキ達に罪はないからね)
そう思う事で罪悪感なくフォークを突き刺しているのだが……
「ねぇ、一体どういうつもり?」
「何がです?」
「とぼけないでよ。今、この状況についてよ」
「あぁ」
不機嫌顔で詰め寄ると、顎に手を当ててなにやら考え込む仕草を見せつけてくる。ここまで来ておいてその態度はなんだ?と腹の底から怒りが湧いてくるが、ジッと我慢。
「…そうですね。敢えて言うなら、このチャンスを利用しない手はないかと思ったまでです」
「は?どういう意味?」
「貴女は知らなくてもいいですよ」
「はぁぁ!?」
そんなの答えになっていないが、コイツに正論を説いても論破されるだけだし……悔しいけど言い返せず睨みつけるのが精一杯。
「折角こうして街へ出てきたんですから、余計なことは考えず楽しめばいいんですよ」
目を伏せ、唇をほこばせて見せた。
(……もしかして、この人も心配してくれた?)
そう言えば、幼い頃から私が落ち込んでいる時はレスターが必ずやって来て、ご機嫌を取ろうとあれやこれやと世話を焼いてくれたっけ……
「ふふっ」
昔を思い出したらつい笑みがこぼれてしまった。
「どうしました?」
「ん?貴方は残念な性格してるなぁって」
「何ですかそれは…褒めてるんですか?」
何故か顔を赤らめて恥ずかしそうに目を逸らしたレスターに「ぷッ…あはははは!」と噴き出してしまった。
「その反応は反則!ズルすぎる!」
腹を抱えて笑う私をレスターは怒ることもせず、黙って見つめていた。
「……良かった……」
「なんか言った?」
あまりにも小さな声だったので聞き取れなかった。
「いいえ。なんでもありませんよ。それより、そろそろ出ましょう。ずっとここに居座る訳にも行きませんからね。この後も私がエスコートしても?」
正直腑に落ちないところもあるが、相手がレスターじゃ仕方ないと思う事にした。それに、腹を抱えて笑ったのも久しぶりだし、気落ちしていた気持ちが和らいだのも事実。
(仕方ない。少しだけ付き合ってやるか)
差し出された手を取り、店を後にした。
エスコートするなんて洒落た言い方されたので身構えてしまったが、なんのことはない。街を一緒に歩き、どちらかが気になった店があれば足を止めて入る。その繰り返しだった。
レスターと一緒で会話が続くか不安だったが、他愛のない話やくだらない話で盛り上がり、話が途切れることがなかった。レスターも表情が読み取れるぐらいには会話を楽しんでいるようで、なんか幼い頃に戻ったみたいで楽しかった。
「あぁ~楽しかった!」
「それは良かったです」
連れ出された当初はここまで楽しむつもりはなかったのに、全力で楽しんでしまった。レスターの両手には私の買った荷物で一杯。懐は寂しくなってしまったが、気持ちは晴れ晴れとしてる。
そんな私とは対照的にレスターは浮かない顔をしている。
「……本当に良かったんですか?今からでも私が贈ることができますよ?」
私の懐事情を知っているレスターは、自分が払うと言って聞かず、会計時に若干揉めた。現に今もこうして使った分を払おうとしてくる。
「いいんだって。そこまでしてもらう義理はないもの。自分の物は自分で買わないと憂さ晴らしにならないでしょう?」
それに、他の男から贈られたものを身につけてるなんてアイヴァン様に知られた時の方がよっぽど苦痛。
「レスター、今日はありがとう!楽しかったわ!」
「いいえ。これくらいは──……あれ?ちょっとミーリいいですか?」
「ん?」
急に立ち止まり、私の顔を覗き込むようにジッと見つめてくる。
「な、なに?」
「ゴミが付いてますね。ちょっとすみません、目を瞑ってくれますか?」
「あ、あぁ、ゴミ!ゴミね!」
(ビックリしたぁ!)
急に真面目な顔で迫ってくるんだもん。いくら見知った顔でも鼻が当たる距離に顔が来ればドキッとだってする。
相手がレスターという事もあり、なんの不信感も持たず言われるがままに目を閉じた。
──この時、私は気付けていなかった。
立ち止まった所が表通りから少し入った路地ということもあり、表通りから見えるのは私の背後だけ。そんな角度でレスターが顔を近づけていたら……
そんな現場をあろうことか、巡回中の騎士に見られていたとしたら……
口を開けて茫然とする騎士。食い入るように凝視している騎士にレスターは、挑発するかのように私の頭に手を回し、目を細めて微笑んだ。