急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る

26

「え!アイヴァン様が!?」

 その一報は突然やって来た。

「はい。本日お戻りになられるそうです」

 ウェブスター邸の執事、エリオットが私に知らせる為にわざわざ赴いてくれた。

 短期から長期に変わる予定だった任務だが、どういう訳だが最短で終わらせたらしい。なんでも?アイヴァン様が密猟者の根城を特定し、ルディガーが止めるのも聞かずに単独で制圧してしまったらしい。

 改めて、アイヴァン様の凄さと勇ましさに感嘆する。

「そこで、ミーリアム様には、我がお屋敷で主を共にで迎えてもらえないかと、お願いに来た次第でございます」

 深く腰を折り、丁寧な言葉を添えてくるが、そんなの頼まれなくても答えは決まってる。

「勿論!喜んで行かせていただきます!」

 食い付きぎみで返事を返した。

 そのままエリオットに連れられ、やって来たウェブスター邸では、メイジーが今か今と私の到着を待っていた。

「ミーリアム様!急いで!」

 挨拶もそこそこに浴室へと連行。全身を磨かれ、あっという間に準備が完了。見事なまでの仕事ぶりに驚くばかり。

「あと数分で到着するようです」

 ホールに出て使用人たちと一緒に帰りを待つ。

 二週間ぶりにアイヴァン様に会えると思うと、ソワソワとして落ち着かない。少しでも気持ちを落ち着かせるために、肩で大きく息を吸い深く息を吐く。

 数回繰り返したところで、バンッ!と激しい音を立てて扉が開いた。

「あ──」と嬉々として顔を上げたが、その後に続く言葉は息と共に飲み込んだ。

 身の毛のよだつほどの威圧感…

 それはその場にいた全員が感じ取っていた。誰もが顔をあげられず、ただジッとその場で体を震わせている。

 そんな中、カツンカツンッと早足で向かってくる足音が聞こえる。嬉しいはずなのに、体が硬直して動かない。

 どうすることも出来ず、黙ったまま動けずにいると、ガバッと担ぎ上げられた。

「私がいいと言うまで部屋に誰も近づけるな」
「──…承知いたしました」

 アイヴァン様は私を担いだまま指示を出すが、エリオットは止めることなく受け入れていた。

「ア、アイヴァン様!?」
「……」

 困惑する私の声に耳を貸すこともなく、迷うことなく自室へと向かった。異様な迫力に、それ以上は何も言えず、ただ身を預けた。


 ***


 ──パタンッ……

 閉まった扉を背に下ろされると、すぐにアイヴァン様が覆い被さってきた。

「アイ、ヴァン、様……?」

 改めて名前を呼んでみる。ドキドキと警告音のように心臓が早鐘を打ってくる。

「……今の俺は、遠征明けで気が昂っている上に、未だかつてないほどに虫の居所がクソ悪い。だから、正直に質問に答えてくれ」

 普段見せる柔らかな表情は消え去り、射殺しそうなほど鋭い眼差しに冷ややかで淡々とした口調で見下ろしてくる。

 なんだろう……嫌な予感しかしない……が、この状況で答えないと言う選択肢はない。それを赦してくれる雰囲気じゃない。

 これは尋問だ。

「ミーリアム。俺が留守の間、他の男と会っていたのか?」
「え?」

 一瞬、時が止まったが、すぐにハッとした。

「あ、レスターがアイヴァン様ロスになっている私を心配してくれて、街に連れ出してくれましたが……」
「レスター……マクナリー侯爵の子息か」

 レスターの名を聞くと分かりやすく眉を顰め、苛立ちを露わにした。

「……彼と、何をしていた?」
「え」

 何をしていた?買い物です。としか言いようがないのだが、今のアイヴァン様はその答えでは納得しない気がする。

「えっと…」

 なんて答えるのが正解なのか解らず、言葉をつまらせ、目を泳がせてしまった。

 ──これが悪かった。

「俺に言えない事か?」
「違ッ──!」

 慌てて否定しようとしたが、その口を柔らかな唇で塞がれた。

「ん……あ…んん……」

 閉じていた唇をこじ開け、舌が滑り込む。歯列をなぞり、探し当てた舌を舌で絡めてくる。乱暴で貪るようなキス。

「……この可愛い唇に他の男の唇が触れたと聞いた時、醜い憎悪で頭がおかしくなりそうだった」
「………え………」

 吐息が漏れる唇をなぞりながらそんな事を言われた。

 他の男の唇が触れた?え、私が誰かとキスしたって事?いやいや、ありえない。ありえないけど、アイヴァン様はし(・)た(・)と思ってる。

 今までの会話からして、その相手はレスターだと思ってるのだろう。一体、どこでそんな誤解が生まれたのか分からないが、先ずはこの状況をどうにかしないといけない。

「ア…アイヴァ……ん!」

 誤解を解きたいが、アイヴァン様がそれを許してくれない。

 初めて受ける荒々しいキスに、呼吸の仕方が分からない。必死に空気を求めるが、その口すらも容赦なく塞がれてしまう。苦しさのあまりアイヴァン様の胸を叩いて訴えるが、呆気なく拘束されてしまった。

「……はぁ…はぁはぁ……」

 解放され時には足腰は役に立たず、その場にへたりこんでしまった。

「悪いな。もはや自制が効かん」

 髪をかきあげながら見下ろすアイヴァン様は、禍々しい微笑を向けてくる。その表情は恐ろしいほど妖艶で、本能に忠実な雄の顔をしていた。

「大人げないだろ?俺をこんな風にしたのは他でもない君だ、ミーリアム。その責任は取ってもらう」

 ドキリと心臓が震えた。剥き出しの支配欲が恐怖を煽ってくる。

「他の男のものになるぐらいなら、今この場で俺のものにする」

 素早く私を抱き上げると、ベッドへと足を進めた。

 ドサッと少しだけ乱暴にベッドに下ろすと、アイヴァン様は手際よく上着を脱ぎ始めた。床に脱ぎ捨てられた服が散らばる。

「俺が怖いか?」

 シャツのボタンを途中まで外すと、寝転がる私の上へ馬乗りになりながら問いかけてきた。

「……こんな事で縛り付けても意味はないと分かっているが、もう自分が抑えられないんだ。本気で嫌なら、俺を斬ってくれ」

 腰に付けていた剣を取り、私の手に握らせた。

 見上げた先には、悲痛な表情で私を見るアイヴァン様。二度とこんな表情(かお)させないって誓ったのに、何やってんだろ…

 ズキッと痛む胸を抑えながら、自分で自分を責める。

 私の軽率な行動が誤解を招く事態になったのは事実。そう考えると、今の私には自分を責める資格すらないのかもしれない。

「どうした?斬らないのなら遠慮はしないぞ」

 最終通告を告げる。
 私のせいで心を痛めているこの人を斬れるはずがない。

 握っていた剣から手を離し、顔を歪めるアイヴァン様の首に抱きつくように腕を回した。

「!?」

 想定外の行動に驚いたようで、肩が微かに揺れた。

「一体誰がアイヴァン様にそんなくだらない嘘を吹き込んだのか知りませんが、誤解させてしまう事態を作ったのは事実。……二度とアイヴァン様を傷付けないと誓ったのに、ごめんなさい」
「ミーリアム…」
「アイヴァン様の辛い顔を見るのは私も辛い。私が言えた立場じゃないと思いますけど……」

 自嘲しながら言った。

「だから、このまま身も心も貴方のものにしてくれますか?」

 アイヴァン様の目を見ながら伝えると、驚いたように目を大きく見開いた。だが、自分の首に回されている腕が微かに震えているのに気付くと、スゥと目を細め優しく押し倒された。

「いいのか?」

 応えるようにコクンと頷いた。

「……もう止められないぞ……」

 ポツリと呟いた。

 二人の視線がぶつかり、ゆっくりと唇が重なる…先程の荒々しいものではなく、優しくて甘く蕩けるようなキスに少しだけホッとし、そのまま身を預けた……



※残り二話!最後までお付き合いいただけたら幸いです┏○ペコッ
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