君とわたしの青春事件簿
昼休みの終わりが近づいていた。

 旧校舎の準備室で見つけた紙を手に、美桜は久世城悠真と一緒に図書室へ向かっていた。
 窓から差しこむ春の光はやわらかいのに、胸の奥は落ち着かない。

「次を知りたければ、図書室へ……」

 美桜が小さく読み上げると、隣を歩く悠真が短く答えた。

「たぶん、ただ呼び出したいだけじゃない」

「え?」

「相手は順番に手がかりを置いてる。見つけてほしいんだ」

「見つけてほしい……?」

「そう。たぶんこれは、ただの嫌がらせじゃない」

 その言葉に、美桜は少しだけ足をゆるめた。
 たしかに、物を隠しただけなら返して終わりでもよかったはずだ。なのに相手は、わざわざ次の場所まで示している。

 図書室の扉を開けると、昼休みの静けさがふわりと広がった。
 本棚のあいだを、数人の生徒が小さな足音で行き来している。司書の先生はカウンターで本の整理をしていて、特に変わった様子はない。

「どこを探せば……」

「まずは目立つ場所じゃない」

 悠真は図書室を見回しながら、迷いなく奥へ進んだ。
 美桜もそのあとを追う。

「どうしてそう思うの?」

「旧校舎もそうだった。すぐ見つかる場所に見せかけて、ちゃんと気づくやつだけが見つけられる位置にあった」

「……久世城くんって、すごいね」

「別に」

 そっけない返事。
 でも、美桜が立ち止まりそうになると、悠真は足を止めてちゃんと待っていてくれる。

 本棚の並ぶいちばん奥。
 人目につきにくい窓際の棚で、悠真がふと一冊の本を抜き取った。

「これ」

「え?」

 本のあいだに、細く折られた紙がはさまっていた。

 美桜の鼓動が早くなる。
 悠真がその紙を開くと、そこには黒いペンで短くこう書かれていた。

なくしたのは物だけですか。

「……なに、それ」

 美桜の声がかすれる。

 物だけですか。
 その一文は、まるでただの盗難事件ではないと告げているみたいだった。

「意味が分からない……」

「いや」

 悠真は紙を見つめたまま、低い声で言った。

「たぶん、これを書いたやつは伝えたいんだ。盗られたのは持ち物だけじゃないって」

「でも、そんなの……」

 言いかけた瞬間、美桜の脳裏に、朝の教室の光景がよみがえる。
 なくなったシャーペンに気づいたとき、前の席の女子が小さな声で友達に話していた。

 昨日なくしたヘアピンがまだ見つからない。
 部活の先輩は校章バッジを探していた。
 たしか、隣のクラスではノートがなくなった子もいた。

 どれも小さなことだと思っていた。
 でももし、それが全部つながっていたとしたら。

「春宮」

 悠真の声に、美桜ははっと顔を上げた。

「たぶんこの事件、被害にあってるのは一人じゃない」

「……うん」

「それに、相手は俺たちに気づいてほしがってる」

「どうして?」

「本当に隠したいなら、こんなふうに手がかりは残さない」

 悠真は紙を半分に折り、制服のポケットにしまった。

「誰かが助けを求めてる可能性がある」

 その言葉に、美桜の胸がきゅっと締まる。

 悪意だけじゃない。
 この謎の奥には、もっと別の事情があるのかもしれない。

 そのときだった。

「……それ、見つけたんだ」

 後ろから、かすかな声がした。

 振り向くと、本棚の影にひとりの女子生徒が立っていた。
 顔色は少し青くて、手の中でハンカチを強く握りしめている。

 彼女は美桜たちを見つめながら、震える声で続けた。

「それ以上、探さないほうがいいよ」
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